悪女な私は身を引きますので、どうぞお幸せに
四章 悪女はどっち?
四章 悪女はどっち?

「大丈夫……だったんじゃないのか」

 ダイニングテーブルに突っ伏して眠ってしまった志桜を前に、楓は小さく息を吐いた。
 顔色も変えずにいいペースで飲み続けているから、酒に強いのだろうとすっかり安心していた。まさか、こんな突然にダウンするとは――。
 起こすべきなのか、このまま寝かせておいてやるべきなのか、判断に困る。
 ほんのり上気した頬、ツンとした形のいい唇から規則正しい寝息がこぼれる。

(こちらには下心があるとはっきり言ったつもりだったんだが、伝わっていなかったのだろうか)

 あまりに無防備すぎる彼女に、肩透かしをくらったような気分になった。
 顔にかかって邪魔そうな髪を払ってやろうと手を伸ばす。指先が触れた頬は、吸いつくような柔らかさだ。

「う、ん」

 志桜はわずかに顔を動かし、吐息交じりの声を漏らした。
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