悪女な私は身を引きますので、どうぞお幸せに
五章 チョコレートの香るキス
五章 チョコレートが香るキス

 乃木坂の裏通りにひっそりと佇む、大人の隠れ家的な割烹料亭。カウンター席のみの小さなお店だが、格調高く、洗練されている。志桜と楓は細長いテーブルの一番奥に並んで座り、先付けとして提供された里芋とイクラのだし漬けを味わう。

「うん、すごくおいしいです」

 上品で優しい味つけは自分の好みにぴったりで、思いきり頬が緩む。その様子を見た楓がホッとしたように目を細める。

「気に入ったのならよかった。急に呼び出してすまなかったな」
「いえ。私も、サンノゼ滞在のお礼をしなくてはと思っていたので」

 こちらから連絡してみようと思っていたタイミングで、彼から今夜の誘いをもらったのだった。なにかを見極めようとする目で、楓がじっとこちらをのぞく。
< 155 / 226 >

この作品をシェア

pagetop