悪女な私は身を引きますので、どうぞお幸せに
二章 悪女な私は身を引くはずが!?
二章 悪女な私は身を引くはずが?

「婚約……ですか? 私に?」

 父の妹の夫、つまり志桜にとって義理の叔父である英輔からその話はもたらされた。父の急死からたった数か月、まだ気持ちの整理もできていないうちに〝婚約〟などと言われても頭が真っ白になるばかりだ。そもそも、自分はまだ二十歳の大学生なのに。

「うちが鷹井グループに業務提携を依頼した話は少し前にしたよね?」
「はい」

 父に代わりKAMUROの新社長となった英輔は娘の愛奈に似て、明るく社交的な人だ。いつも気難しそうに押し黙っていた父とは違い、ニコニコと誰に対しても愛想がいい。

「見返りとして先方が出してきた条件が神室家と縁続きになることでね。まぁなんというか、KAMUROは鷹井家に見捨てられたらもうあとがないから……むげにするわけにもいかなくてねぇ」
「事情は十分わかっています」

 原因は志桜の父にある。生前、投資に失敗して多額の損失を抱えてしまったのだ。最初に聞いたときは堅実な父らしくないと信じられない気持ちだったが、事情を知っていた経理課長の証言もあり疑う余地はなかった。
 KAMUROにとって鷹井グループとの業務提携は会社の存続を懸けた最後の一手に等しく、なりふり構っていられる状況ではない。

「お相手は鷹井一族の方ですか?」
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