悪女な私は身を引きますので、どうぞお幸せに
一章 お久しぶりの婚約者さま
一章 お久しぶりの婚約者さま

 ひと月前、残暑の厳しい八月最後の金曜日。
 老舗宝飾品ブランド『KAMURO』の本社は日本橋にある。歴史と知名度はあるが、企業規模としてはさほど大きくないので本社ビルも四階建てのこぢんまりとしたもの。

 志桜が所属している企画部は、新商品の企画やプロモーションの立案をするチームだ。

(ターゲット層の心に刺さるかどうか。それが鍵よね)

 志桜は自らが作成した企画書をもう一度見直し、ブラッシュアップのためのヒントを探す。

 KAMUROの創業は明治時代。始まりは呉服屋だったけれど、その名を一躍有名にしたのはなんといってもダイヤモンドだ。国内で最初にダイヤモンドを輸入販売し、その美しさを世に広めたのがKAMUROなのだ。今でも『ダイヤモンドなら絶対にKAMUROだ』と言ってくれる顧客は多い。
 このブランド力を維持するため、あえて拡大戦略は取らず、創業の地である日本橋の本店のみで勝負している。

(やたらと店舗を増やしたら、うちの最大のウリである品格が薄れる。それは間違っていない。だけど……)
< 6 / 226 >

この作品をシェア

pagetop