悪女な私は身を引きますので、どうぞお幸せに
三章 西海岸が似合わない彼
三章 西海岸が似合わない彼 

 ひと月後。混沌としているプライベートとは違い、ビジネスは順調そのものだ。KマシェリのサイトにAIを活用したサービスを導入する例の企画は着々と進んでいる。

「トキルって本当にかわいいですよね! トキルアプリのおかげで寂しい週末を過ごす心配はなくなりました」

 KAMUROの会議室に愛奈の華やいだ声が響く。今日の打ち合わせはプロモーションに関わる話なので、広報担当として愛奈にも出席をお願いした。蘭は体調不良でお休みのため、不在だった。
 彼女が『かわいい』と褒めたトキルは、鷹井AIラボが開発したAIの基本形。AIとしての性能はもちろん、どこかレトロなロボット風ビジュアルがウケて若者に大人気だ。
 愛奈の言葉に誇らしげにうなずいたのは雄大だ。

「キャラクターを作ろうと提案したのは僕なんです。『不要だ』と言い張る鷹井さんをどうにか説得して。大正解だったでしょう?」

 最後の台詞は楓のほうを向き、ニヤリとしながら言った。

「まぁ、この点に関してはな」

 ちょっと不本意そうに楓は口をへの字にする。
 雄大は楓の大学の研究室の後輩で、彼が鷹井AIラボを立ちあげたときからの相棒らしい。前回の打ち合わせのときに、『おもしろそうだからあれこれ口出ししてて、結局そのまま雇ってもらったんです』と雄大が教えてくれた。
 最初はクライアントの前だからと楓を『鷹井』と呼んでいたけれど、もうすっかり素のまま、『鷹井さん』呼びになっている。雄大がそんな調子なので、志桜と愛奈もイトコ同士であると伝えて砕けた雰囲気で打ち合わせをさせてもらっていた。
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