蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
6章・蒼穹の覇者は花嫁を逃がさない
朝、頬に触れる小さな手に玲奈が薄く目を開けると、クリクリとしたどんぐり眼と視線が重なる。
「優聖、どうしたの?」
(目の形だけ双子のどちらか区別がつくなんて、我ながらすごい)
そんなことを寝ぼけた頭で思いながら、玲奈が話しかけると、優聖が玲奈の額に手を当てる。
「ママ、おねちゅ?」
「え? そんなことないよ」
どうしてそんなことを聞くのだろうと思いつつ、玲奈も自分の額に触れてみたが、やはり発熱している感じはない。
もちろん喉も痛くないし、体がだるいということもない。
どうしてそんなことを言うのかと息子をみると、優聖は唇を尖らせて「なんかへん」と言う。
どうやら幼い子供なりに、ここしばらくの玲奈の動揺を肌で感じ取っていたらしい。
「ママの心配してくれたの? ありがとう」
上体を起こした玲奈は、そう言って優聖を膝に抱く。
すると母の抱擁に安心したのか、優聖はそのまま玲奈にしがみついて指吸いを始める。
眠たい時の優聖の癖だ。
スマホで時刻を確認すると、五時二十分。
昨日保育園の入園式を終えた双子は、七時まで寝ているし、玲奈も五時半に起きればいい。だから動き出すまでまだ少し余裕がある。
「そういえば鈴桜は?」
いつも親子三人で一緒に寝ているのに、隣で寝ているはずの鈴桜の姿が見当たらない。
そう思って周囲を見渡すと、足下の方で背中を反らせた奇妙な姿勢で寝ている。
すやすやと気持ち良さそうな寝息を立てているので苦しくないのはわかるのだけれど、子供の関節がどうなっているのか不思議になる。
「ママ……げんき?」
指を吸ってウトウトしながら優聖が聞く。
「うん、元気だよ。この前、遠くにお出かけしたから、ちょっと疲れちゃったの」
玲奈がそう言うと安心したのか、優聖はそのまま寝息をたてはじめた。玲奈は、そんな優聖の髪を撫でながら先日のことを思い出す。
梢に頼まれて参加した展示会で悠眞に遭遇したのは、三日ほど前のことだ。
妻とおぼしき女性と一緒にいる悠眞の姿に衝撃を覚えて、心が散り散りになりそうなくらい苦しかった。
逃げるように駅に向かい、新幹線に乗り込む頃には多少は気持ちも落ち着き、彼の近況を知りたいと思えるようになっていた。
悠眞が幸せなら、今度こそ、未練を断ち切れると思ったからだ。
それで悠眞の名前を入力して検索してみると、すぐに経済誌の特集記事に辿り着いた。
悠眞のことを〝蒼穹の覇者〟というあおり文句で紹介する記事で、それによると彼は、この数年で、危機的経営状況に陥っていた鷹翔グループの業績を元の状態にまで回復させたのだという。
自分の恋心を封印すべく、別れを決断してから、本人の名前はもとより、鷹翔グループの名前を意識しないようにしていたので、そのことに素直に驚かされた。
経済誌のためか、記事のどこにも彼の結婚についての記述はなかったけど、それでも掲載されている写真には彼の左手薬指に光る指輪が映り込んでいるのでそれが答えだと言える。
その記事を何度も読み込み、新幹線を降りる頃には、あの日の自分の決断は間違っていなかったと思えるようになっていた。
もしあのまま玲奈が悠眞と結婚していれば、あの両親が悠眞にどんな迷惑をかけていたかわかったものではない。
もし両親が、双子の父親が誰であるか知ったらどうなることか。
会社の建て直しのために奔走する悠眞を支えられなかったのは悔やまれるけど、せめて自分や自分の家族が彼の足を引っぱるような存在にならなくてよかった。
そしてこれからも、自分たちの存在が、彼の幸せの妨げになってはいけない。
悠眞が日本に帰って来ているのだとしても、都内で暮らしているのなら、二度と巡り会うことはないだろう。
もちろん子供たちが、父親の顔を知らず育つことへの罪悪感はある。
「ごめんね、ママがその分も頑張るから許してね」
自分の残りの人生をかけて子供たちを大事に育てようと、玲奈は改めて心に誓った。
「優聖、どうしたの?」
(目の形だけ双子のどちらか区別がつくなんて、我ながらすごい)
そんなことを寝ぼけた頭で思いながら、玲奈が話しかけると、優聖が玲奈の額に手を当てる。
「ママ、おねちゅ?」
「え? そんなことないよ」
どうしてそんなことを聞くのだろうと思いつつ、玲奈も自分の額に触れてみたが、やはり発熱している感じはない。
もちろん喉も痛くないし、体がだるいということもない。
どうしてそんなことを言うのかと息子をみると、優聖は唇を尖らせて「なんかへん」と言う。
どうやら幼い子供なりに、ここしばらくの玲奈の動揺を肌で感じ取っていたらしい。
「ママの心配してくれたの? ありがとう」
上体を起こした玲奈は、そう言って優聖を膝に抱く。
すると母の抱擁に安心したのか、優聖はそのまま玲奈にしがみついて指吸いを始める。
眠たい時の優聖の癖だ。
スマホで時刻を確認すると、五時二十分。
昨日保育園の入園式を終えた双子は、七時まで寝ているし、玲奈も五時半に起きればいい。だから動き出すまでまだ少し余裕がある。
「そういえば鈴桜は?」
いつも親子三人で一緒に寝ているのに、隣で寝ているはずの鈴桜の姿が見当たらない。
そう思って周囲を見渡すと、足下の方で背中を反らせた奇妙な姿勢で寝ている。
すやすやと気持ち良さそうな寝息を立てているので苦しくないのはわかるのだけれど、子供の関節がどうなっているのか不思議になる。
「ママ……げんき?」
指を吸ってウトウトしながら優聖が聞く。
「うん、元気だよ。この前、遠くにお出かけしたから、ちょっと疲れちゃったの」
玲奈がそう言うと安心したのか、優聖はそのまま寝息をたてはじめた。玲奈は、そんな優聖の髪を撫でながら先日のことを思い出す。
梢に頼まれて参加した展示会で悠眞に遭遇したのは、三日ほど前のことだ。
妻とおぼしき女性と一緒にいる悠眞の姿に衝撃を覚えて、心が散り散りになりそうなくらい苦しかった。
逃げるように駅に向かい、新幹線に乗り込む頃には多少は気持ちも落ち着き、彼の近況を知りたいと思えるようになっていた。
悠眞が幸せなら、今度こそ、未練を断ち切れると思ったからだ。
それで悠眞の名前を入力して検索してみると、すぐに経済誌の特集記事に辿り着いた。
悠眞のことを〝蒼穹の覇者〟というあおり文句で紹介する記事で、それによると彼は、この数年で、危機的経営状況に陥っていた鷹翔グループの業績を元の状態にまで回復させたのだという。
自分の恋心を封印すべく、別れを決断してから、本人の名前はもとより、鷹翔グループの名前を意識しないようにしていたので、そのことに素直に驚かされた。
経済誌のためか、記事のどこにも彼の結婚についての記述はなかったけど、それでも掲載されている写真には彼の左手薬指に光る指輪が映り込んでいるのでそれが答えだと言える。
その記事を何度も読み込み、新幹線を降りる頃には、あの日の自分の決断は間違っていなかったと思えるようになっていた。
もしあのまま玲奈が悠眞と結婚していれば、あの両親が悠眞にどんな迷惑をかけていたかわかったものではない。
もし両親が、双子の父親が誰であるか知ったらどうなることか。
会社の建て直しのために奔走する悠眞を支えられなかったのは悔やまれるけど、せめて自分や自分の家族が彼の足を引っぱるような存在にならなくてよかった。
そしてこれからも、自分たちの存在が、彼の幸せの妨げになってはいけない。
悠眞が日本に帰って来ているのだとしても、都内で暮らしているのなら、二度と巡り会うことはないだろう。
もちろん子供たちが、父親の顔を知らず育つことへの罪悪感はある。
「ごめんね、ママがその分も頑張るから許してね」
自分の残りの人生をかけて子供たちを大事に育てようと、玲奈は改めて心に誓った。