蒼穹の覇者は、激愛で契約妻と秘密の我が子を逃がさない
エピローグ
六月吉日。
本日貸し切りとなっているカフェ・クレールでは、桜色のワンピースを着た鈴桜と、蝶ネクタイが可愛い子供用のタキシード姿の優聖が追いかけっこしていた。
「こら鈴桜、優聖。走っちゃダメ」
白いワンピースに身を包み、椅子に座って梢に髪飾りの角度を直してもらっていた玲奈が注意してもふたりは知らん顔だ。
「やぁ。あしょぶ」
玲奈がすぐには動けないこのタイミングとばかりに、とてとてと走り回る。
「こら。お店の中で走っちゃダメだろ」
カクテルスーツに身を包む悠眞が、優しい声で注意して、目の前を通り過ぎようとした鈴桜を抱きあげた。
するとすかさず優聖が「ズルい」と、両手を伸ばして、悠眞に抱っこをせがむ。
「はいはい」
優聖のおねだりに、悠眞は表情をほころばせてふたりをまとめて抱きあげる。
「ふたりとも、すっかりパパっ子ね」
左右の腕にそれぞれ、鈴桜と優聖を抱きあげる悠眞を見て、梢が顔をほころばせた。
それを聞いた優聖が「違う」と抗議して、悠眞の首に腕を絡めて言う。
「パパ違う、ちゅーぱーヒーロー」
優聖がそう言えば、鈴桜も一緒になって「ちゅーぱーヒーロー」と、騒ぐ。
「まいったな」
悠眞はかなり照れくさそうにしているが、まんざらでもないようだ。
そんな親子の姿に、玲奈は、目頭に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
「こら、お化粧が落ちちゃうわよ」
優しい口調で窘めて、梢が玲奈にハンカチを差し出す。
「ありがとうございます。でも幸せ過ぎて」
受け取ったハンカチで目元を押さえて、涙が収まるのを待つ玲奈は、悠眞と再会してから今日までのことを思い返す。
三月の展示会で奇跡的な再会を果たした悠眞は、その後、バウムクローネにまで玲奈や双子を追いかけてきてくれた。
そして瑠依奈から玲奈と優聖を守ってくれた彼は、その時瑠依奈に『君の一族が、今までの地位を失うことを理解すればいい』と、話していたが、現在その言葉通りに自体が動きつつある。
白石商事のカルテルの件は相当悪質なものだったらしく、連日メディアを賑わせていた。現在、公正取引委員会が調査している最中だ。
報道によれば、刑事事件にまで発展する可能性が高いのだという。
それにより白石商事の企業イメージは著しく失墜し、その責任を取って、白石親子は退任するはこびとなった。
それは白石運輸の社長を務めていた幸平も同じで、近く退任するのだという。
これまでの権威を全て失うことになった幸平夫婦は、玲奈たちを頼ろうとしたが、玲奈はそれを毅然と拒んだ。
結果、玲奈は両親との縁が途切れたが、悠眞と新たな家庭を築く覚悟をしているのでその状況に後悔はない。
そして今日、玲奈と悠眞の新たな門出を祝うために親しい人たちを招いて、カフェ・クレールでささやかな双子のお披露目をすることになった。
オーナーの渚沙夫妻も久しぶりの再会と、玲奈たちの門出を喜んでくれた。玲奈としても、三年越しにはなったが、渚沙夫妻との約束を果たせたことがうれしい。
事前に挨拶を済ませた悠眞の両親は、玲奈が人知れず悠眞の子供を産んでいたことにはかなり驚いてはいたが、それでも可愛い孫たちを大歓迎してくれている。
現在悠眞は、日本とアメリカを行ったり来たりする状況が続いているが、近く拠点を日本に戻す予定だ。
そうしたら、それを機に四人で一緒に暮らすことになっている。
玲奈たちはバウムクローネを離れるのだが、梢はその決断を祝福してくれている。
そうやって悠眞と家族と暮らす準備は着々と進んでいるのだけれど、幼い双子には悠眞が自分たちの父親だということがうまく理解できないらしく、彼のことを〝スーパーヒーロー〟と呼ぶ。
悠眞は、その呼び方を恥ずかしがりつつも、子供たちが自然に自分のことを〝パパ〟と呼んでくれるようになるのを待つと言ってくれている。
「「ママ」」
双子が声を揃えて玲奈を呼ぶ。
「なに?」
立ち上がった玲奈がそちらへと歩みよると、鈴桜がこちらへと腕を伸ばすので、そのまま受け取る。
「みて」
「いっちょ」
両親それぞれに抱っこされている優聖と鈴桜が、悠眞と玲奈の左手の薬指を示す。
そこにはふたりが夫婦であることを示す、シルバーの輝きがある。
悠眞の指に収まるそれが、玲奈のものよりくすんだ輝きをしているのが、離れて過ごしたふたりの歴史を語っているようだ。
でも、これから何十年と共に暮らしていくことで、そんな些細な輝きの違いはきにならなくなるだろう。
「おそろい」
「いっちょ」
双子が声を揃えて言う。
「うん。パパとママが仲よしの証拠だよ」
玲奈がそう言うと、双子がキョトンとして悠眞を見上げる。
「パパ?」
「せいとりおの?」
このタイミングでやっと、悠眞が自分たちの父親だという理解が追いついて来たらしい。
玲奈と悠眞、それぞれの腕の中で双子が「「パパ」」と、悠眞を呼ぶ。
「優聖、鈴桜……」
ふたりに父親と認識されたことを、悠眞が噛みしめていると、クレールのドアが開く気配がした。
「結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
そう言いながら入ってくる招待客を、玲奈は愛する夫と可愛い子供たちと出迎えた。
本日貸し切りとなっているカフェ・クレールでは、桜色のワンピースを着た鈴桜と、蝶ネクタイが可愛い子供用のタキシード姿の優聖が追いかけっこしていた。
「こら鈴桜、優聖。走っちゃダメ」
白いワンピースに身を包み、椅子に座って梢に髪飾りの角度を直してもらっていた玲奈が注意してもふたりは知らん顔だ。
「やぁ。あしょぶ」
玲奈がすぐには動けないこのタイミングとばかりに、とてとてと走り回る。
「こら。お店の中で走っちゃダメだろ」
カクテルスーツに身を包む悠眞が、優しい声で注意して、目の前を通り過ぎようとした鈴桜を抱きあげた。
するとすかさず優聖が「ズルい」と、両手を伸ばして、悠眞に抱っこをせがむ。
「はいはい」
優聖のおねだりに、悠眞は表情をほころばせてふたりをまとめて抱きあげる。
「ふたりとも、すっかりパパっ子ね」
左右の腕にそれぞれ、鈴桜と優聖を抱きあげる悠眞を見て、梢が顔をほころばせた。
それを聞いた優聖が「違う」と抗議して、悠眞の首に腕を絡めて言う。
「パパ違う、ちゅーぱーヒーロー」
優聖がそう言えば、鈴桜も一緒になって「ちゅーぱーヒーロー」と、騒ぐ。
「まいったな」
悠眞はかなり照れくさそうにしているが、まんざらでもないようだ。
そんな親子の姿に、玲奈は、目頭に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
「こら、お化粧が落ちちゃうわよ」
優しい口調で窘めて、梢が玲奈にハンカチを差し出す。
「ありがとうございます。でも幸せ過ぎて」
受け取ったハンカチで目元を押さえて、涙が収まるのを待つ玲奈は、悠眞と再会してから今日までのことを思い返す。
三月の展示会で奇跡的な再会を果たした悠眞は、その後、バウムクローネにまで玲奈や双子を追いかけてきてくれた。
そして瑠依奈から玲奈と優聖を守ってくれた彼は、その時瑠依奈に『君の一族が、今までの地位を失うことを理解すればいい』と、話していたが、現在その言葉通りに自体が動きつつある。
白石商事のカルテルの件は相当悪質なものだったらしく、連日メディアを賑わせていた。現在、公正取引委員会が調査している最中だ。
報道によれば、刑事事件にまで発展する可能性が高いのだという。
それにより白石商事の企業イメージは著しく失墜し、その責任を取って、白石親子は退任するはこびとなった。
それは白石運輸の社長を務めていた幸平も同じで、近く退任するのだという。
これまでの権威を全て失うことになった幸平夫婦は、玲奈たちを頼ろうとしたが、玲奈はそれを毅然と拒んだ。
結果、玲奈は両親との縁が途切れたが、悠眞と新たな家庭を築く覚悟をしているのでその状況に後悔はない。
そして今日、玲奈と悠眞の新たな門出を祝うために親しい人たちを招いて、カフェ・クレールでささやかな双子のお披露目をすることになった。
オーナーの渚沙夫妻も久しぶりの再会と、玲奈たちの門出を喜んでくれた。玲奈としても、三年越しにはなったが、渚沙夫妻との約束を果たせたことがうれしい。
事前に挨拶を済ませた悠眞の両親は、玲奈が人知れず悠眞の子供を産んでいたことにはかなり驚いてはいたが、それでも可愛い孫たちを大歓迎してくれている。
現在悠眞は、日本とアメリカを行ったり来たりする状況が続いているが、近く拠点を日本に戻す予定だ。
そうしたら、それを機に四人で一緒に暮らすことになっている。
玲奈たちはバウムクローネを離れるのだが、梢はその決断を祝福してくれている。
そうやって悠眞と家族と暮らす準備は着々と進んでいるのだけれど、幼い双子には悠眞が自分たちの父親だということがうまく理解できないらしく、彼のことを〝スーパーヒーロー〟と呼ぶ。
悠眞は、その呼び方を恥ずかしがりつつも、子供たちが自然に自分のことを〝パパ〟と呼んでくれるようになるのを待つと言ってくれている。
「「ママ」」
双子が声を揃えて玲奈を呼ぶ。
「なに?」
立ち上がった玲奈がそちらへと歩みよると、鈴桜がこちらへと腕を伸ばすので、そのまま受け取る。
「みて」
「いっちょ」
両親それぞれに抱っこされている優聖と鈴桜が、悠眞と玲奈の左手の薬指を示す。
そこにはふたりが夫婦であることを示す、シルバーの輝きがある。
悠眞の指に収まるそれが、玲奈のものよりくすんだ輝きをしているのが、離れて過ごしたふたりの歴史を語っているようだ。
でも、これから何十年と共に暮らしていくことで、そんな些細な輝きの違いはきにならなくなるだろう。
「おそろい」
「いっちょ」
双子が声を揃えて言う。
「うん。パパとママが仲よしの証拠だよ」
玲奈がそう言うと、双子がキョトンとして悠眞を見上げる。
「パパ?」
「せいとりおの?」
このタイミングでやっと、悠眞が自分たちの父親だという理解が追いついて来たらしい。
玲奈と悠眞、それぞれの腕の中で双子が「「パパ」」と、悠眞を呼ぶ。
「優聖、鈴桜……」
ふたりに父親と認識されたことを、悠眞が噛みしめていると、クレールのドアが開く気配がした。
「結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
そう言いながら入ってくる招待客を、玲奈は愛する夫と可愛い子供たちと出迎えた。


