妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
10 優しい距離感
スマホを確認しながら着替えていた北斗は、花梨と連絡が取れないことに不安を覚えていた。
メッセージを送っても既読にならず、電話をかけても出ない。まだ仕事が長引いているのだろうか──そうだとしても、何かしら反応があるはずだ。
嫌な予感がしていると、更衣室に先輩医師である雪村が入ってきた。コンビニに行っていたのか、手には白い袋をぶら下げている。
「おっ、今帰り?」
「はい、お先にすみません」
「いやいや。それよりさ、さっきエントランスの前で原田の修羅場を目撃しちゃった。あいつ、本当に強すぎるよな。相手の女の子、泣きながら逃げてったよ」
原田が修羅場──北斗はハッとしたように目を見開いた。
「あのっ……相手の女性って、どんな人でしたか?」
「んー、小柄で可愛い感じの女の子だったよ。ライオンに襲われかけてる子羊って感じ?」
あのお話し会の日、雪村は休みだった。だから花梨に見覚えがなくても納得する。北斗が黙り込んだので、雪村は何かを察したように目を細めた。
「原田って、昔から菱川のこと狙ってるんだろ? ってことは、ボコボコにされてた相手の子って、もしかしてお前の彼女だったり?」
「たぶんそうです」
「おぉっ、あっさり認めちゃう感じ?」
「当たり前です。隠すことじゃないんで。それってどれくらい前のことですか?」
「ヒュー、潔くてカッコいいじゃん」
「冗談はいいので、早く教えてください」
「ノリ悪いなぁ。まぁ彼女の一大事だし、そんなこと言ってられないか。確か十五分くらい前だったかな」
「ありがとうございます。ではお先に失礼します」
「お疲れー」
北斗は雪村の顔も見ずに、一目散に更衣室を飛び出した。
メッセージを送っても既読にならず、電話をかけても出ない。まだ仕事が長引いているのだろうか──そうだとしても、何かしら反応があるはずだ。
嫌な予感がしていると、更衣室に先輩医師である雪村が入ってきた。コンビニに行っていたのか、手には白い袋をぶら下げている。
「おっ、今帰り?」
「はい、お先にすみません」
「いやいや。それよりさ、さっきエントランスの前で原田の修羅場を目撃しちゃった。あいつ、本当に強すぎるよな。相手の女の子、泣きながら逃げてったよ」
原田が修羅場──北斗はハッとしたように目を見開いた。
「あのっ……相手の女性って、どんな人でしたか?」
「んー、小柄で可愛い感じの女の子だったよ。ライオンに襲われかけてる子羊って感じ?」
あのお話し会の日、雪村は休みだった。だから花梨に見覚えがなくても納得する。北斗が黙り込んだので、雪村は何かを察したように目を細めた。
「原田って、昔から菱川のこと狙ってるんだろ? ってことは、ボコボコにされてた相手の子って、もしかしてお前の彼女だったり?」
「たぶんそうです」
「おぉっ、あっさり認めちゃう感じ?」
「当たり前です。隠すことじゃないんで。それってどれくらい前のことですか?」
「ヒュー、潔くてカッコいいじゃん」
「冗談はいいので、早く教えてください」
「ノリ悪いなぁ。まぁ彼女の一大事だし、そんなこと言ってられないか。確か十五分くらい前だったかな」
「ありがとうございます。ではお先に失礼します」
「お疲れー」
北斗は雪村の顔も見ずに、一目散に更衣室を飛び出した。