転生して捨てられたボク、最恐お義兄さまに拾われる~無能と虐げられたけど辺境で才能開花⁉~

プロローグ

 無機質なキーボードの音が、八階のオフィスにひとつだけ響いている。
 時刻はすでに十一時をまわり、照明はとっくに間引かれて所内は薄暗くなっている。
 その中でただひとり、白(しら)鳥(とり)翼(つばさ)はモニターに目を凝らしながら指を忙しなく動かしていた。

「……もうこんな時間か」

 ふとモニターの右下に目をやり、十一時を過ぎていることに遅まきながら気が付く。
 途端、長時間の仕事の疲れを自覚して、目や肩が鈍く痛み出した。
 残業。今や睡眠よりも付き合う時間が長いもの。
 翼は三十歳になってから重い役職に就かされて、ここ最近はこれまでとは比にならない量の仕事に追われている。
 毎日遅くまで働き詰めで、残業時間は上限時間をゆうに超えている。

 元々は労働環境が整っているホワイトな職場だったのだが、翼が会社に入った直後に経営陣の贈収賄に関するコンプライアンス違反が発覚。
 その後、企業の信頼回復のために新しい経営陣が投入されたが、利益第一主義で社員たちを大事にしない連中ばかりで瞬く間に無茶なノルマや長時間労働が常態化。
 そのうえ、昇進して役職が変わったことで会社側の配慮もどんどんなくなってきてしまった。
 結果、今晩も遅くまで残業し、やるべきことがまだまだ残っている。

(……辞めたい)

 そうは思うが、なかなか転職には踏み切れない。
 なぜならここの仕事も、転職を繰り返して辿(たど)り着いた結果だからだ。
 新卒で就職した場所は会社自体はよかったけど配属された部署の上司がパワハラ野郎で証拠を掴ませないずる賢い奴だったし、なんとか三年は勤めた後に転職した先は安月給と無茶なノルマのダブルパンチだし。
 そして最後に辿り着いたこの会社は、ぶっちぎりの長時間労働を強いてくるブラックに急変してしまった。
 どうせこれ以上転職しても変わらないからと、翼はもうこの会社に骨を埋めることに決めていた。

(はぁ、いいことないなぁ)

 いつもの口癖がため息と共に心の中で漏れてしまう。
< 1 / 159 >

この作品をシェア

pagetop