偽装婚約者は愛したがりの年下御曹司
甘い言葉には騙されない!

 夜の暗いオフィスの中、私は煌々と光るパソコンの画面をジッと見つめている。

 節電のため天井の照明はほとんど落としているので、夜間警備員が見回りに来たら幽霊にでも見間違われるかもしれない。

 仕事しかよりどころのない、悲しき社畜の亡霊……。

 自分の想像があまりにネガティブすぎて、ふっと皮肉めいた笑みがこぼれる。

 金曜の夜だからと、上司も同僚も早めに帰ってしまった。家族、友人、恋人、推し。関係性はどうあれ、それぞれの大切な人のもとへ。

「私も半年前まではこうじゃなかったんだけどな……」

 ぽつりと呟くと、途端に寂しさがこみ上げそうになって、首を勢いよく左右に振る。

 こんな風にダラダラと残業していたのでは効率が悪い。やるべきことをやらなくては。

 気を取り直して見つめたパソコンの画面には、ふたつのシューズブランドを比較する一覧表がある。

 どちらのブランドを我らが『御門(みかど)ホテル』別館のショッピングエリアへ誘致するか。その選定をするのが、御門ホテル本社のリーシング部で働く私、芦屋(あしや)美冬(みふゆ)の仕事なのだ。

 
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