偽装婚約者は愛したがりの年下御曹司
一生モノの恋――side黎也
『ですから、あなたの息子さんの婚約者、俺の元カノなんですよ。彼女とは順調に交際していて結婚の約束もしていたのに、あなたの息子さんが横取りした。これって、慰謝料案件じゃないですかね?』
父がスマホに録音していた音声――峰田直樹の声を聞きながら、俺は腸が煮えくり返っていた。
なにが順調に交際だ。なにが横取りだ。
美冬さんの信頼を失ったのは峰田の自業自得だし、彼女に借りたまま返さない金のことを思えば、慰謝料を請求したいのはむしろ美冬さんの方だろう。
『え? 無理? じゃあ俺、あらゆる宿泊予約サイトで、御門ホテルのレビュー荒らしまくりますよ? それか、SNSでありもしない御門ホテルの残念対応とか呟こうかな。真偽はともかく、拡散されれば勝ちですからね』
スマホの再生が終わると、父が疲れたようにため息を吐いた。
美冬さんとのデートの後、父からの呼び出して向かったのは、御門ホテル本社。夜の社長室で聞かされた話は、あまり愉快なものとは言えなかった。
その日の夕方、美冬さんの元恋人である例のクズ男は、俺や美冬さんに恨みを募らせて会社のそばをウロウロしていたらしい。