偽装婚約者は愛したがりの年下御曹司
彼女の傷を癒したい――side黎也
俺は御門家のひとり息子のため、御門ホテルの後継者になることは生まれた時から決まっていた。
だからといって、御門の家や会社に尽くそうという忠誠心も、こんな家に生まれて不運だと悲観することもなく、なるようになるだろうと受け身な人生を送っていた。
家は裕福、勉強はできたし人付き合いも器用な方なので、苦労という苦労を知らない。
『御曹司は気楽でいいよな』と友人から皮肉を言われることもあったが、学生時代の俺はそう言われても仕方がない人間だった。
大学を卒業した後は社長である父の指示に従って、御門ホテルに入社。一般社員とは研修期間が違ったものの、彼らと同じように複数の部署をローテーションで回った。
しかし、社長の息子という肩書きのついた俺は扱いづらいのだろう。
どこへ行っても社員たちの対応がよそよそしく、明らかなミスを犯しても、叱られるどころか庇われた。
昼休みや終業後だけは女性社員たちが寄って来て、御門ホテル御曹司である俺に気に入られたくて、媚を売る。
そんな調子だったから、部署を去るときにはいつも男性社員たちがホッとした顔をしていた。仕事の役に立てないどころか、俺は邪魔者だったのである。