偽装婚約者は愛したがりの年下御曹司
年下御曹司の誘惑
カレンダーが十二月に変わって数日が経ったある日の午後。
デスクの上で、トン、と書類を揃えた私は、気合を入れるようにふうっと息を吐いた。
これから、才賀先生に二度目の交渉をしに、彼の事務所へ行く。
彼に出された宿題をクリアするために二週間の時間をもらえたので、改装後のショッピングエリアを以前よりナチュラルテイスト寄りにするよう委託会社にプラン変更を求めたり、副社長が賃料の値下げについて社長に交渉してくれたり……私たちにできることは全部したつもりだ。
そうして作成した新しい資料を今、手元に揃えたところ。
前回も実は紙での資料を用意していたのだけれど、先生のペースに乗せられてすっかり慌ててしまい、出しそびれていたのだ。
「芦屋、もう出られるか?」
「はい! 準備はできています」
前回は副社長とふたりだったけれど、今回の相棒は谷村さん。副社長は重要な役員会議が入ってしまい、来られなくなってしまった。
谷村さんは運転が好きなので、今日は社用車の運転も買って出てくれた。
支度を整えて谷村さんとオフィスを出ると、ふいに私の姿を上から下まで眺めた彼女が口を開く。
「朝から思っていたけど、今日は雰囲気が違うな」
「やっぱり似合ってないですよね……? 対才賀先生用の、お高い服なんです。前回の訪問では安物を着ていることを指摘されてしまって、それで、副社長が……」