偽装婚約者は愛したがりの年下御曹司
近づきかけているふたつの心――side黎也
「ショッピングエリアのリニューアルの件は順調のようだな」
「はい。リーシング部と連携し、主要なテナント企業と着々と契約にこぎつけています」
御門ホテル本社、社長室。俺はその部屋の主である父親に呼び出され、仕事の進捗状況を報告していた。
「なるほど、それなら結構」
父はふむふむと頷いた後、チェーンのついた眼鏡を外して俺を見る。
「時に黎也。お前、結婚には興味ないのか?」
「……ずいぶん唐突ですね」
実の父にも敬語を使ってしまうのは、昔からの癖。
特段厳しい人ではないので恐れているわけではなく、老舗の御門ホテル経営者としての特別なオーラを纏う父を、子どもの頃から尊敬しているからだ。
「いや、ハワイでも確かな実績を残し、こちらへ来てからも精力的に頑張っているお前の姿には父としても感心していてな。お前はまだ若いが、パートナーを迎えていっそう生活を安定させるのもいいんじゃないかと思ったんだ。お節介でなければ、知り合いに適当な相手を紹介してもらうこともできるぞ」
一応、親心から言ってくれているらしい。仕事ぶりを褒められるのは嬉しいが、パートナーに関して口を出されるのは、あまりいい気がしない。
まさかとは思うが、政略結婚などを仕組んではいないかと軽く不安になった。