(2025改稿版)俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
9.最初で最後のひと目惚れ side愁
「……面白い女」


思わず声が漏れた。

視線の先に、気分を害した様子で去っていく女性の華奢な姿が見えた。

ここ数日抱えていた厄介な案件がなんとか片付き、さすがに疲れを感じた。

俺は気分転換と癒やしを求め、ついでに姉から言われている視察も兼ねて庭園にやってきた。

とくに気に入っている管理室近くのベンチに横たわった途端、ひとりだったせいもあり不覚にも気が抜けて意識を飛ばしてしまっていた。

遠くの方から微かに声が聞こえた気がして薄く目を開ける。

するとひとりの女性が心配そうな表情で俺を見つめていた。


誰だ?


もしや不法侵入者かと一瞬身構えるが、敷地内に美術館があるためここには数々の防犯カメラをはじめ二十四時間体制の厳戒なセキュリティが施されている。

もちろん鍵の保管者は限られており、勝手な複製はできない。

正直に名乗り、俺に言われるがまま鍵を差し出したうえ、ここに入った経緯まで丁寧に説明する彼女に不審な点は見当たらず、警戒心はなくなっていた。

むしろ俺の素性を確認もせず、馬鹿正直にすべてを告げたうえ、体調を気にかけてくるお人好しぶりが気になるくらいだ。

俺の心の声が漏れ出ていたせいか、厳しい表情を浮かべ立ち去った彼女になぜか口元が綻んだところ、秘書から電話がかかってきた。

応対して通話を終えたときにはずいぶん時間が経っていた。

最近の宿泊先であるホテルに戻ろうと足を進めた際、ふと先ほどの女性を思い出す。
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