売られた令嬢は最後の夜にヤリ逃げしました〜平和に子育てしていると、迎えに来たのは激重王子様でした〜
一章 最初で最後の夜
「俺はミリアムと結婚して、レンログ伯爵家を継ぐ」
「…………そうですか」
形式上、シルヴィーの婚約者のロランはそう言って艶やかなライトブラウンの髪をかき上げた。
書類をまとめる手を止めて顔を上げた。
「アンタは婚約は破棄されたのよ。荷物をまとめて今すぐに伯爵邸から出て行ってちょうだい」
隣にはシルヴィーの義理の妹……とは言っても同じ歳のミリアムの姿がある。
ミリアムがシルヴィーの婚約者であるロランと身を寄せ合っているのはいつものことだ。
今は外で飲み歩いている父の代わりにシルヴィーが領地管理をして、必要な書類の整理をしていた。
子爵家の次男であるロランとの婚約が決まったのは一年前のことだ。
当時、ミリアムは王太子と結婚するのだと意気込んでいたしロランを馬鹿にしていた。
ロランとの結婚の目的は金だ。
税収があるからと何もせずに遊び呆けていた父。
情勢が移り変わり、事業や投資などで資金を得ることが主流になっていたのだが、その頃にはすっかり取り残されて資金難。
安易に手を出した事業で大失敗。
しかし簡単に甘美な過去を忘れられず怠惰な生活は続いていた。
己の欲が我慢できずに堕落していき、ついに新興貴族に頼らずにはいられなくなった。
古参貴族たちに馬鹿にされたとしても爵位を手放すことだけは嫌だったのだろう。
ロランの家は商人から成り上がった新興貴族だ。
この結婚は古参貴族のレンログ伯爵家の爵位目的で、社交界での立場を確立するものだと言っても過言ではない。
< 1 / 174 >