売られた令嬢は最後の夜にヤリ逃げしました〜平和に子育てしていると、迎えに来たのは激重王子様でした〜
三章 波乱の予感
──それから三年後。
シルヴィーは平民となり、シルヴィアとして新しい人生を歩んでいた。
「まま、だいすきっ」
「わたしも大好きよ、ホレス」
「ぎゅ……っ」
「ぎゅ~~! ホレスは天使ね」
一番の驚きはというと、子どもが生まれたということ。
シルヴィーは三年前のことを思い出す。
夜会の後、現実逃避するように宿で朝まで過ごしてから店に戻った。
着崩れたドレスや乱れた髪を見て、皆が心配してくれたが、あの日の晩のことは誰にも言えるわけがない。
『襲われそうになったが何とか逃げられた』
そう言って誤魔化すのに精一杯だった。
しかし何も言わなくても、シルヴィーが痛い目にあったことは察してくれたのだろう。
母やリーズは何も言わずにシルヴィーを抱きしめてくれた。
それから一週間ほど経った頃だろうか。
シルヴィーはある噂を聞くことになる。
なんとアデラールがラディング侯爵の悪事を暴くために調査に潜入していたそうだ。
そして夜会に関わった貴族たちは次々と罰を受けている。
その中にはレンログ伯爵家も含まれていた。
貴族たちは大混乱だそうだが、アデラールは国の英雄として街では大盛り上がりだった。だらだらと流れる冷や汗。
夜会に彼が関わっていたことを考えて、あの部屋に入ってきたのはアデラールだとしたのなら……。
(ま、まさかね……)