リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
プロローグ
澄んだ青空が広がる春の日、アルカディア王国内でも大きな礼拝堂でとある伯爵令嬢の葬儀が厳かに行われている。
多くの者が参列するその中で一人――ベンジャミン・ギルバートはこの日を誰よりも待ちわびていた。優秀すぎて可愛げがないと見下してきた婚約者と、ようやく永遠の別れを告げることができるのだから。
(いや、元婚約者か)
ベンジャミンの隣には、すでに新しい婚約者であるエミリがいる。ピンクブラウンの髪を揺らす可憐な容姿に、うっすらと涙を浮かべられた瞳は、中央に鎮座する棺に向けられていた。
棺の中で眠るのは、エミリの従姉であるリシェル・ベッカー伯爵令嬢。艷やかな亜麻色の髪と翡翠のような澄んだ緑の瞳を持つ彼女は、国の発展に大きく貢献した聡明な司書だった。誰もが憧れ、王家からも一目置かれる存在であった彼女の死を聞いた者たちは皆、嘆き悲しんだ。
しかし、彼女が眠る棺の蓋は重く閉ざされており、最期の姿を見られないようにされていた。
「リシェル様、こんなことになるなんて……」
「馬車事故ですって。国境付近を走っている時に車輪が壊れたらしいですわよ」
「隣国側まで飛ばされて、婚約者であるギルバート公爵のご令息と、伯父のベッカー伯爵がお迎えに行かれたのよね。それにしても、最期のお姿が見られないなんて……」
参列している者が小声で話しているのが、ベンジャミンの耳にも入ってくる。
多くの者が参列するその中で一人――ベンジャミン・ギルバートはこの日を誰よりも待ちわびていた。優秀すぎて可愛げがないと見下してきた婚約者と、ようやく永遠の別れを告げることができるのだから。
(いや、元婚約者か)
ベンジャミンの隣には、すでに新しい婚約者であるエミリがいる。ピンクブラウンの髪を揺らす可憐な容姿に、うっすらと涙を浮かべられた瞳は、中央に鎮座する棺に向けられていた。
棺の中で眠るのは、エミリの従姉であるリシェル・ベッカー伯爵令嬢。艷やかな亜麻色の髪と翡翠のような澄んだ緑の瞳を持つ彼女は、国の発展に大きく貢献した聡明な司書だった。誰もが憧れ、王家からも一目置かれる存在であった彼女の死を聞いた者たちは皆、嘆き悲しんだ。
しかし、彼女が眠る棺の蓋は重く閉ざされており、最期の姿を見られないようにされていた。
「リシェル様、こんなことになるなんて……」
「馬車事故ですって。国境付近を走っている時に車輪が壊れたらしいですわよ」
「隣国側まで飛ばされて、婚約者であるギルバート公爵のご令息と、伯父のベッカー伯爵がお迎えに行かれたのよね。それにしても、最期のお姿が見られないなんて……」
参列している者が小声で話しているのが、ベンジャミンの耳にも入ってくる。
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