リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
リシェル・ベッカーの失踪から三ヶ月が経過。ギルバート公爵邸にて
ギルバート公爵家が統治する領地で徴収税がぐんと上がることが通達されると、領民から不満の声が大いに上がった。
あまりにも理不尽すぎるとデモ活動まで発展したが、未だ復興が進んでいない橋の修繕費だと言い包めてしまえば、渋々と了承した。
ベンジャミンはその様子を満足気に見下すと、少しずつ他の徴収税も上げていった。多めに徴収した分の一部はエミリとの結婚式の費用に、それでも多く取りすぎた分は自分の借金の返済に当てる。フランクが懇意にしている商会から借りたとはいえ、返済が遅れれば利子が上乗せされていく。いくらベンジャミンが少しずつ返していっても、すぐに増えていき、負のループに終わりは見えずにいた。
エミリとは入籍はしたものの、屋敷に領民が押しかけてくるリスクを考慮し、ベッカー伯爵の屋敷に滞在してもらっている。結婚式も目処が立っていない状況だ。
新婚早々、離れ離れになってしまったが、毎週のように愛を綴った手紙とプレゼントを送る日々が続いていた。
ある日、朝早くから公爵に呼び出されたベンジャミンは眉をひそめた。
なぜか王家に仕えるはずの文官、テオ・グランドがいる。相変わらず怜悧な表情を浮かべる彼は何を考えているのかわからない。
問えば、「そんなことはどうでもいい」と疲れ切った表情の公爵が一蹴する。
「ベンジャミン、もう限界だ。お前にはもう誰もついていけない」
「今さらなんです? 父上は僕の案に快く乗ってくれたじゃないですか。お陰で領が国に収める額は元通りですよ?」
「快く……だと? はは、お前にはそう見えていたのか。悪いが私はずっと心を痛めていたよ。資金繰りが上手くいっていないのは私の力不足だからな。――しかし、それはどうやら違ったらしい」
そう言ってベンジャミンの前に紙の束を叩きつける。端が破られ、煤で汚れているそれにベンジャミンは眉を顰めた。
「これは……」
「見覚えがないとは言わせない。お前が今まで商会から借りてきた金と購入品のリストだ。ドレスにレース、嗜好品……ほとんどがエミリへのプレゼントといったところか。私がかき集めた資金を個人的に使っただけでなく、借金までしているとは……ギルバート家の名に泥を塗る気か!」
ものすごい剣幕で問いただそうとする公爵を見て、以前にもリシェルに同じようなことをされたな、と呑気に考える。
落ち着いて、と手を下げるジェスチャーをしながら、ベンジャミンはへらっと笑った。
あまりにも理不尽すぎるとデモ活動まで発展したが、未だ復興が進んでいない橋の修繕費だと言い包めてしまえば、渋々と了承した。
ベンジャミンはその様子を満足気に見下すと、少しずつ他の徴収税も上げていった。多めに徴収した分の一部はエミリとの結婚式の費用に、それでも多く取りすぎた分は自分の借金の返済に当てる。フランクが懇意にしている商会から借りたとはいえ、返済が遅れれば利子が上乗せされていく。いくらベンジャミンが少しずつ返していっても、すぐに増えていき、負のループに終わりは見えずにいた。
エミリとは入籍はしたものの、屋敷に領民が押しかけてくるリスクを考慮し、ベッカー伯爵の屋敷に滞在してもらっている。結婚式も目処が立っていない状況だ。
新婚早々、離れ離れになってしまったが、毎週のように愛を綴った手紙とプレゼントを送る日々が続いていた。
ある日、朝早くから公爵に呼び出されたベンジャミンは眉をひそめた。
なぜか王家に仕えるはずの文官、テオ・グランドがいる。相変わらず怜悧な表情を浮かべる彼は何を考えているのかわからない。
問えば、「そんなことはどうでもいい」と疲れ切った表情の公爵が一蹴する。
「ベンジャミン、もう限界だ。お前にはもう誰もついていけない」
「今さらなんです? 父上は僕の案に快く乗ってくれたじゃないですか。お陰で領が国に収める額は元通りですよ?」
「快く……だと? はは、お前にはそう見えていたのか。悪いが私はずっと心を痛めていたよ。資金繰りが上手くいっていないのは私の力不足だからな。――しかし、それはどうやら違ったらしい」
そう言ってベンジャミンの前に紙の束を叩きつける。端が破られ、煤で汚れているそれにベンジャミンは眉を顰めた。
「これは……」
「見覚えがないとは言わせない。お前が今まで商会から借りてきた金と購入品のリストだ。ドレスにレース、嗜好品……ほとんどがエミリへのプレゼントといったところか。私がかき集めた資金を個人的に使っただけでなく、借金までしているとは……ギルバート家の名に泥を塗る気か!」
ものすごい剣幕で問いただそうとする公爵を見て、以前にもリシェルに同じようなことをされたな、と呑気に考える。
落ち着いて、と手を下げるジェスチャーをしながら、ベンジャミンはへらっと笑った。