リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜

リシェル・ベッカーの失踪から半年と一週間が経過。ギルバート邸にて

 会場は一時騒然となり、異国交流夜会パーティーはお開きとなった。
 背後から刺されたベンジャミンはすぐに城の医務室にて処置を受けた。深く刺されたため一時は危険な状況だったが、無事に峠を越えたものの自宅での療養は難しいと、両親の希望で医院のベッドに移ることになった。

 今回の一件には、一歩間違えれば隣国の来賓を危険に晒す可能性もあったことも含め、アルカディアの責任問題に発展した。
 本来であれば有効条約を打ち切られてもおかしくはなかったが、使者としてその場にいたテオバルドの恩情により、ギルバート家の爵位の返上を早めることと、騒ぎの原因となったベンジャミンとエミリに厳重な処分を下すことで、今後も友好な関係を進めていくと発表された。

 これにより、新聞ではギルバート家の内部事情まで徹底的に調べられた内容が掲載され、ほとんどの貴族はギルバート家ならびにベッカー家との関係を完全に断つこととなった。

 夜会から一週間後、ギルバート家が管理していた領地はアーヴェンヌ公爵家によって統括された。ギルバート夫妻は元々移る予定だった田舎へ早々と越していき、息子のことは遠縁の伯爵家に任せたという。
 元公爵は最後に、ベッドの上で不満を垂れ流す息子に対して吐き捨てるようにこう告げた。
「その怪我は、お前が自分勝手に欲張った末路なのだ」――と。
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