リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
第五章 すべては過去の話
リシェル・ベッカーの失踪から三年が経過。アルカディア城にて
「――失礼します。報告に参りました。……殿下?」
国王補佐であるダニエル・アーヴェンヌが執務室へやってくると、窓の外を見ていたルーカス王太子は大きな溜息とともに顔を伏せた。
「ちゃんと聞いているよ、ダニエル。……思っていた以上に状況が悪いと思って。小国の現状はどうなっている?」
そう言ってルーカスは気を引き締めると、ダニエルは報告書を手渡し、ルーカスが頭を悩ませている一件について報告を始めた。
北の小国で魔物と人間の戦いは繰り広げられている。三年前から活性化しているが、未だ鎮静化に至っていない。
今回の報告では、戦況と兵士達の疲弊、食料などの調達ルートの調整など、細かな内容がまとめられていたが、その中にルーカスに聞き馴染んだ名前が挙がった。
「D隊のベンジャミン・ギルバートが魔物が拠点に入り込んだ際にパニック状態に陥り、ランタンを振り回して一帯を火の海にしたそうです。現在は入院中とのことですが、喉を焼かれているようでして。除隊させることになりました」
「そうか。……彼にとって生きることも地獄と化したか」
ベンジャミンに関しては、現アーヴェンヌ領の一部の領民から、今もなお厳重な処罰を求める抗議文が送られてきている。それほどまでに自身の私腹を肥やすために領民を利用した罪は重い。なにより『アルカディアの才媛』を無下に扱ったことは、領民だけでなく近隣各国からも抗議文が届いた。
今回の一件により、ベンジャミンは動くことだけでなく声を出すこともできなくなり、寝たきりの状態で生きていくことが確定した。少しは領民も報われることを願う反面、素直に喜べるようなものではない結末となった。ルーカスは苦虫を噛み潰した思いだった。
「そして、ルペ山の鉱脈が発見された件につきまして、調査隊を組ませて探らせています。人数が足りないので、何人か移動させて合流させる予定です。その中にはフランク・ベッカーも含まれています」
「わかった。最近の様子なら問題ないだろう……随分大人しいのは気になるけどね」
「ええ。誰よりも真面目に働いていますが、裏で何を考えているのか……引き続き、重点的に監視しています」
闇商会との取引に加え、八年前のハンク・ベッカーとその妻オリビア、そして三年前に起こったリシェル・ベッカーの事故がどちらも意図的に仕組まれたものとわかり、フランクに殺人罪が課せられ、最終的に終身刑が命じられることとなった。
現在は強制労働をこなしているが、以前のような覇気は一切感じられないどころか、一言も発しないこともあるらしい。しかし、よからぬことを企んでいる可能性も捨てきれないため、看守による監視は続いている。
ただ、少しでも改心してくれているのなら、とルーカスは願う。
国王補佐であるダニエル・アーヴェンヌが執務室へやってくると、窓の外を見ていたルーカス王太子は大きな溜息とともに顔を伏せた。
「ちゃんと聞いているよ、ダニエル。……思っていた以上に状況が悪いと思って。小国の現状はどうなっている?」
そう言ってルーカスは気を引き締めると、ダニエルは報告書を手渡し、ルーカスが頭を悩ませている一件について報告を始めた。
北の小国で魔物と人間の戦いは繰り広げられている。三年前から活性化しているが、未だ鎮静化に至っていない。
今回の報告では、戦況と兵士達の疲弊、食料などの調達ルートの調整など、細かな内容がまとめられていたが、その中にルーカスに聞き馴染んだ名前が挙がった。
「D隊のベンジャミン・ギルバートが魔物が拠点に入り込んだ際にパニック状態に陥り、ランタンを振り回して一帯を火の海にしたそうです。現在は入院中とのことですが、喉を焼かれているようでして。除隊させることになりました」
「そうか。……彼にとって生きることも地獄と化したか」
ベンジャミンに関しては、現アーヴェンヌ領の一部の領民から、今もなお厳重な処罰を求める抗議文が送られてきている。それほどまでに自身の私腹を肥やすために領民を利用した罪は重い。なにより『アルカディアの才媛』を無下に扱ったことは、領民だけでなく近隣各国からも抗議文が届いた。
今回の一件により、ベンジャミンは動くことだけでなく声を出すこともできなくなり、寝たきりの状態で生きていくことが確定した。少しは領民も報われることを願う反面、素直に喜べるようなものではない結末となった。ルーカスは苦虫を噛み潰した思いだった。
「そして、ルペ山の鉱脈が発見された件につきまして、調査隊を組ませて探らせています。人数が足りないので、何人か移動させて合流させる予定です。その中にはフランク・ベッカーも含まれています」
「わかった。最近の様子なら問題ないだろう……随分大人しいのは気になるけどね」
「ええ。誰よりも真面目に働いていますが、裏で何を考えているのか……引き続き、重点的に監視しています」
闇商会との取引に加え、八年前のハンク・ベッカーとその妻オリビア、そして三年前に起こったリシェル・ベッカーの事故がどちらも意図的に仕組まれたものとわかり、フランクに殺人罪が課せられ、最終的に終身刑が命じられることとなった。
現在は強制労働をこなしているが、以前のような覇気は一切感じられないどころか、一言も発しないこともあるらしい。しかし、よからぬことを企んでいる可能性も捨てきれないため、看守による監視は続いている。
ただ、少しでも改心してくれているのなら、とルーカスは願う。