奪われる人生なら、 すべて捨ててしまいましょう ~忘れ去られた第七王女による国を巻き込んだ逆転劇~
第一章 忘れ去られた第七王女は逃亡を決意する
はっと気が付いた時には天井を見上げていた。
エリュシアは目を瞬かせる。
ここ数年見慣れた帝国の離宮の天井ではない。いったい、どこの天井だろうか。
それよりも気になるのは。
(……夢?)
自分は刃で胸を貫かれ、心だけがどこか狭いところに押し込められたはずだった。
四方八方から迫ってくる圧力。
こんなところで死にたくないと思いながら、意識は闇に閉ざされて――。
それなのに、貫かれたはずの胸は痛くない。
明るい光が、目に飛び込んできて、ぶるりと身を震わせる。
これは、夢? 胸を貫かれたのが夢だったのだろうか。いや、帝国に嫁いで寂しく暮らしたことそのものが夢だったのかも。
心臓に手を当ててみれば、とくとくと刻んでいる鼓動を感じ取れる。
ばっと飛び起きて向かったのは、鏡の前。
そこに映っているのは、最期の記憶より幾分幼い顔。艶やかな黒髪に、金色の目をした少女が見返してくる。
ぐるりと周囲を見回せば、帝国の私室とは違う設えだった。
白と柔らかなピンクを基調に整えられた部屋だ。室内の家具は白一色で揃えられ、金具は黄金色に輝いている。