絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない

セレナが死んだ日

 デュカス公爵家には、瓜二つの双子がいた。
 ブロンドヘアにエメラルドグリーンの瞳を持つ、兄のカイルと妹のセレナ。二人はなにをするにも一緒で、好きな食べ物も嫌いな食べ物も同じ。髪の長さでどうにか判別がつくほどによく似ていた。性別こそ違えど、とても仲のよい双子だった。

 厳格な父を持ちながらも、穏やかな母のおかげで家庭には笑顔が溢れていた。
 けれどある日、その幸せな生活は一変する。

「今日馬車に轢かれて死んだのはお前だセレナ。いいか、お前は今日からカイルとして生きていくんだ、わかったな!」

 ジャキン!

 母が結わえてくれた三つ編みに、父は躊躇うことなくハサミを入れた。お気に入りだったパールの髪留めごとぽとりと床に落ちる。セレナはそれを他人事のように呆然と見ていた。

 これは、自分への罰だから仕方がない。

 大好きな兄を失った実感も得られぬ中、セレナは死んだのだ。

 床に転がっている切り落とされた髪は、さっきまで艶やかに輝いていた自慢の髪だったはずなのに、今は色あせて輝きを失っている。
 まるで自分のようだとセレナは思う。
 自分が死にゆくのを、セレナは黙って受け入れた。

「返事をしろ! カイル!」
「……はい、父上」

 セレナ・デュカスが死んだのは、十歳になったばかりの春のことだった――……

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