絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
ペンダント
「カイル、これに魔力を当ててみてくれ」
夕食を終えて自室に戻るなり、アンリが手をこちらに差し出した。そこには、長さ三センチほどの細長い水晶のネックレスが乗せられていた。きらきらと控えめに光を反射するそれは、透明度が高くて見るからに高価なものだとわかる。
「こう、ですか?」
アンリからなにかをお願いされるのは初めてのことで、セレナは不思議に思ったものの差し出されたそれに手をかざして言われた通り魔力を流し込む。
なにが起こるのだろう、と見ていると、水晶がセレナの魔力に反応して光を放った。
アンリはその光が消えるのを見届けると満足そうに「これでいい」と頷く。なにが「いい」のか、事態を掴めていないセレナが小首を傾げると、アンリがようやく説明し始めた。
「身の危険を感じたとき、これに魔力を流すと防御魔法が発動する護身用の魔道具だ」
「魔道具……」
「万が一に備えて身に着けておくといい」
「えっ、身に着けるって、僕がですか?」
疑問に思ったことを投げかけると「ほかに誰がいるんだ」と呆れた目を向けられてしまった。
「こんな高価なもの困ります……頂けません」
魔道具は、その中に貯めた魔力によりさまざまな効力を発揮できるため、魔法を使えない者でもその恩恵を受けられる優れものとして値の張る代物だった。いくらお金に困ることのない王子のアンリからの贈り物であっても、易々と受け取れるものではない。
「今のでセッティングが完了したから、もうカイル以外の魔力では反応しない」
(つまり、返品はできない、と……)
「……ではせめて代金を支払わせてください」
「これは売り物じゃないんだ」
「え?」