「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます

12.解けない確証

 二人きりになった大広間の内。

 ヴィルヘルムはアンジェリカの手を引いたかと思うと、手近なカウチにどかりと腰を下ろした。また行儀悪く片膝を立てて、それに頬を預けるようにする。

 それに続くように、アンジェリカも隣に腰を下ろす。

 そうだ、手当てをしなければ。そう思って繋いだ手を解いたら、ヴィルヘルムはそっとその手をトラウザーズのポケットにしまいこんでしまう。

「お手を」

 アンジェリカはハンカチを取り出してそう言った。けれど、ヴィルヘルムは「うわ、ちゃんとしたレースのハンカチだ」とまるで取り合わない。

 仕方がないからその手首をぐっと掴んで無理やりにポケットから引きずり出した。本当は消毒もした方がいいのだろうが、まずは止血だろう。

 包帯の代わりに、ヴィルヘルムの手のひらにハンカチを巻いていく。けれど、ヴィルヘルムがアンジェリカにしてくれたようにはうまくいかない。

 何せアンジェリカは人の傷の手当てなんかするの、はじめてだったので。

「なんであんた、こんなことしたの」

 悪戦苦闘していたら、頭の上から声が降ってきた。

 それは恥じているようにも怒っているようにも聞こえる。顔を上げてヴィルヘルムの面構えを拝みたいところだが、生憎今はそれどころではない。

「手際が悪くて、大変申し訳ございませんが」

 包帯のようには上手く傷に添わないし結べない。きちんと巻き付けようとすれば、今度は、

「アン、そんなに絞められたらさすがに痛いよ」

 やんわりと抗議をされた。仕方がないので、解いてもう一度最初からやり直す。
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