「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
24.祝福
ぴん、と突如部屋に満ちた魔力の気配に、ヴィルヘルムは目を開けた。
一瞬で皮膚が粟立つほどの強い魔力。
隣で眠る者を起こさないようにそっと、絡められた腕を外す。そのままヴィルヘルムは起き上がって、辺りを見回した。けれど目を凝らしても何の姿も見えなかった。
すると何もない闇に、足からふわりとその姿が現れる。蠱惑的な肢体が全て顕現したかと思えば、真っ赤な髪が揺れた。
ヴィルヘルムは、ただそれを見つめていることしかできなかった。
「やあ、久しぶりだね」
にたりと、真っ赤な唇が弧を描く。神出鬼没を絵に描いたような、魔女の姿だった。
「一体何の用ですか」
「やだなあ、そんな怖い顔しないでよ。ボクと君の仲じゃないか」
「と、言われましても」
言い返す自分の声に棘が混じっているのが分かる。
魔女の金色の目がゆらりと動く。ヴィルヘルムは傍らのしどけない妻の姿を隠すように上掛けを掛けた。
もう二度とこの手から零れ落ちることがないように、皆を守ることができるように。そのために魔法を鍛えたつもりだった。今の自分はあの頃の自分とは違うとわかっている。
けれどそれでも、例えばこの魔女と真正面から戦って、勝てるとは思えなかった。
何かあった時、果たして自分はアンジェリカを守り切れるだろうか。ぎゅっと上掛けを握りしめて対峙することしかできなかった。
「別に取って食ったりはしないよ」
どうだか。生きた人間の心臓が好物だと言ったくせに。
一瞬で皮膚が粟立つほどの強い魔力。
隣で眠る者を起こさないようにそっと、絡められた腕を外す。そのままヴィルヘルムは起き上がって、辺りを見回した。けれど目を凝らしても何の姿も見えなかった。
すると何もない闇に、足からふわりとその姿が現れる。蠱惑的な肢体が全て顕現したかと思えば、真っ赤な髪が揺れた。
ヴィルヘルムは、ただそれを見つめていることしかできなかった。
「やあ、久しぶりだね」
にたりと、真っ赤な唇が弧を描く。神出鬼没を絵に描いたような、魔女の姿だった。
「一体何の用ですか」
「やだなあ、そんな怖い顔しないでよ。ボクと君の仲じゃないか」
「と、言われましても」
言い返す自分の声に棘が混じっているのが分かる。
魔女の金色の目がゆらりと動く。ヴィルヘルムは傍らのしどけない妻の姿を隠すように上掛けを掛けた。
もう二度とこの手から零れ落ちることがないように、皆を守ることができるように。そのために魔法を鍛えたつもりだった。今の自分はあの頃の自分とは違うとわかっている。
けれどそれでも、例えばこの魔女と真正面から戦って、勝てるとは思えなかった。
何かあった時、果たして自分はアンジェリカを守り切れるだろうか。ぎゅっと上掛けを握りしめて対峙することしかできなかった。
「別に取って食ったりはしないよ」
どうだか。生きた人間の心臓が好物だと言ったくせに。