離婚するはずが、凄腕脳外科医の執着愛に囚われました
4.苦悩と本音《律Side》
『律! 日本に帰るって本当なの?』
十時間以上に及ぶ手術を終え、ようやく自宅に着いたところで甲高い声が聞こえ、律はあからさまに顔を顰める。
病院から遊歩道で繋がるマンションは、四十二階建て。徒歩十分の場所に職場である病院やショッピングモール、カフェなどがあるため、数年の仮住まいとしては気に入っていた。
『冗談でしょう? 私はなにも聞いてないわ!』
植木の脇から、ひとりの派手な外見の女性が姿を表す。
律はうんざりしつつも、言う必要がどこにあるんだという反論を飲み込んだ。話に付き合う気力も体力も残っていない。
(残っていたとしても、付き合う義理もないが)
納得がいかないときゃんきゃん騒ぐ彼女は、ケイト・デイビス。神の手を持つ男と呼ばれる医師、オリバー・デイビスの孫娘だ。
オリバーの娘がケイトを生んで間もなく亡くなっているのもあり、彼は孫娘を溺愛している。
ケイトは律よりもひと回り近く年下の二十三歳とはいえ、成人して五年は経っている。約束もなしに他人の自宅前で待ち伏せするのは非常識であると理解してしかるべき年齢にもかかわらず、何度注意しても改善されない。