ハイヒールの魔法
プロローグ
それは偶然聞こえてしまった言葉で、相手が誰かはわからなかった。
帰りがけ、忘れものを取りに教室に戻ろうとしたら、数名の男子の笑い声が聞こえてきたのだ。
「三木谷? 俺はなしかなぁ」
「あぁ、わかる。俺もなし」
「っていうか、まず背が高過ぎ。許容範囲を軽く越えてるわ」
「あれ、スカート履いてなかったら、性別わかんなくね?」
「見た目が男女なんだから、せめて髪くらい伸ばせばいいのに」
「言えてるー!」
どうして自分の話になっていたのかはわからない。
でも言葉の全てが自分を示していたし、この学年に同じ名字の人はいなかった。
私は忘れ物そっちのけで逃げるように走り出すと、トイレに駆け込み、嗚咽を堪えて泣いた。
どうして他人に自分自身を否定されなきゃいけないんだろう。身長はどうにもならないし、顔だって生まれつき。短い髪が好きだからそうしているのに、自分の想いよりも誰かの言葉を優先させないと、生きることすら許されないの?
そうして生きる私は、本当に"私"なのだろうか──卑屈になって、逆に変えたくないと思ってしまう。
ずっと素敵な恋に憧れていたけど、恋をすることが怖い。恋に憧れているのに、恋をするのが怖いという矛盾が生まれる。
私は男子と話すことが苦手になり、距離を置くようになった。
そんな現実世界で傷ついた心を癒してくれたのは、漫画や小説の中の優しくて素敵な男子だった。何が合っても、どんな時でも、ヒーローはヒロインを守って愛する。まさに思い描いてきた理想的な王子様がそこにはいた。
ただこんなことを口にすれば、また陰口を叩かれるかもしれない。それが怖くて、この気持ちは心の奥に留めておこうと決めた。
こんな私が恋をしたり、ましてや結婚なんて無理な話に決まってる。
それならそれでいいもの──私は私らしく生きるだけ。
帰りがけ、忘れものを取りに教室に戻ろうとしたら、数名の男子の笑い声が聞こえてきたのだ。
「三木谷? 俺はなしかなぁ」
「あぁ、わかる。俺もなし」
「っていうか、まず背が高過ぎ。許容範囲を軽く越えてるわ」
「あれ、スカート履いてなかったら、性別わかんなくね?」
「見た目が男女なんだから、せめて髪くらい伸ばせばいいのに」
「言えてるー!」
どうして自分の話になっていたのかはわからない。
でも言葉の全てが自分を示していたし、この学年に同じ名字の人はいなかった。
私は忘れ物そっちのけで逃げるように走り出すと、トイレに駆け込み、嗚咽を堪えて泣いた。
どうして他人に自分自身を否定されなきゃいけないんだろう。身長はどうにもならないし、顔だって生まれつき。短い髪が好きだからそうしているのに、自分の想いよりも誰かの言葉を優先させないと、生きることすら許されないの?
そうして生きる私は、本当に"私"なのだろうか──卑屈になって、逆に変えたくないと思ってしまう。
ずっと素敵な恋に憧れていたけど、恋をすることが怖い。恋に憧れているのに、恋をするのが怖いという矛盾が生まれる。
私は男子と話すことが苦手になり、距離を置くようになった。
そんな現実世界で傷ついた心を癒してくれたのは、漫画や小説の中の優しくて素敵な男子だった。何が合っても、どんな時でも、ヒーローはヒロインを守って愛する。まさに思い描いてきた理想的な王子様がそこにはいた。
ただこんなことを口にすれば、また陰口を叩かれるかもしれない。それが怖くて、この気持ちは心の奥に留めておこうと決めた。
こんな私が恋をしたり、ましてや結婚なんて無理な話に決まってる。
それならそれでいいもの──私は私らしく生きるだけ。
< 1 / 28 >