運命の恋をした御曹司は、永遠にママと娘を愛し続ける
プロローグ

晴香(はるか)!! これ、洗っておいてよ」
 甲高い声が廊下に響いたかと思うと、ふわりと軽やかに舞い上がった薄手の布が、私の肩に無遠慮に落ちてきた。
 それは、さきほどの食事の席で琴音がうっかりソースをこぼして染みをつけたシルクのワンピースだった。彼女は、まるで当然のような手つきでそれを放り投げ、その横柄な態度に私は疲れを覚えながらも、黙って受け取るしかなかった。
 ――自分でやれば……。
 喉元まで出かかった言葉を、私は飲み込んだ。琴音(ことね)がすぐ隣の花瓶へと手を伸ばし、ガラスの縁に細い指を這わせながら、わざとらしく微笑んで私を見下ろしていたからだ。

「いいの? 手が滑っちゃうかもね……」
 無邪気な声音の裏に潜む、いつものような刺々しい敵意が、彼女の視線にはありありとにじんでいた。私は心の奥でそっと息を吐き、努めて平静を装いながら言葉を返す。
「……わかったわよ」
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