45歳、妊娠しました

第48話 働き方を考える

翌週、美香は会社で上司に呼ばれた。課長職に復帰してからの働きぶりを評価される一方で、負担の大きさも懸念されていたのだ。

 「佐藤さん、家庭との両立、大変でしょう? 無理をして倒れられては困る。柔軟な働き方も検討してみてはどうですか」

 上司の言葉はありがたいが、同時に心に重く響いた。



 帰宅後、夕食の席でその話を家族に切り出すと、健一が真っ先にうなずいた。

 「いいじゃないか。リモート勤務とか時短とか、できるなら取り入れた方がいい」

 結衣も受験勉強の合間に顔を上げ、

 「ママが無理してるの、見ててわかるよ。蓮くんだって、ママに元気でいてほしいんだから」

 と真剣に言った。



 美香は箸を置き、しばらく黙って考え込んだ。課長として現場を引っ張る責任感と、母として子どもに寄り添いたい気持ち。どちらも大切で、選ぶことはできない。

 けれど、両方を守る方法を探すことならできる。



 翌日、美香は人事部に相談に行った。週に数日のリモート勤務やフレックス制度の活用を提案し、チームの体制を工夫する方向で話を進めることになった。

 「課長としての責任は変わらない。でも、やり方を工夫すれば続けられる」

 そう思えるようになった瞬間、美香の肩の力が少し抜けた。



 その夜。寝かしつけのあと、ベビーベッドで眠る蓮の小さな手を見つめながら、美香は心の中で誓った。

 ──私は働く母としても、蓮の母としても、自分なりの道を歩んでいこう。家族の力を信じて。

< 48 / 51 >

この作品をシェア

pagetop