治療不可能な恋をした
悪意の執着、揺るがぬ愛
菜々美という不安要素を残しつつも、不安になるような出来事は何ひとつ起こらず、日々は驚くほど穏やかに流れていた。
挨拶の日からしばらくの時が過ぎ、相変わらずそれぞれ忙しい仕事に追われながらも、合間を縫って少しずつ同棲の準備を進めてきた。
物件を決め、休みが合えば必要な家具を選びに出かけたり、その道中にデートを重ねたり。ささやかな作業の積み重ねが、確かに「一緒に暮らす」という未来を形にしていく。
そんなある朝。
理人の家に泊まっていた梨乃は、窓から差し込む柔らかな光に目を細め、穏やかにまぶたを開けた。
隣では、深い呼吸を繰り返す理人の寝顔。胸の奥が温かさで満たされるような、静かな朝だった。
(……よく寝てる……)
もう少し顔をよく見たくて体を少し動かしてみたけれど、起きる気配はまるでない。どれだけ近くで覗き込んでも、彼は気持ちよさそうに夢の中にいた。
──理人は、意外と寝起きが悪い。
最初に知ったときは少し驚いたけれど、今はそのギャップに毎回どきりとさせられる。
普段の甘やかすような笑みはなく、寝ぼけて不機嫌そうに眉を寄せる姿。梨乃だけが知る、唯一の欠点かもしれない──そう思うと、どうしようもなく微笑ましくて、愛おしく思えてしまう。
梨乃は思わず、掛け布団の端を指でつまみながら、目の前の寝顔をじっと見つめてしまった。