治療不可能な恋をした
再び、すれ違う -side 理人-
ベッドに横たわり眠る梨乃の頬に、理人はそっと指先を添えた。
触れたばかりの肌は、まだかすかに熱を宿している。微かに揺れる睫毛。つい先ほど重ねた体温の余韻が、指先に心地よく残っていた。
(相変わらず、ちっさ……)
自身の体にすっぽりと埋まってしまうほどに華奢な体は、日々過酷な現場で医師として働いているとは思えないほど頼りなかった。
小さな肩も、細い指も、透けるように白い肌も。
あの頃と、何も変わらない。
──かつて、想いを告げられないまま散った、あまりに遅い恋心を抱いた、あの頃と。
. . 𖥧 𖥧 𖧧
仁科梨乃は、何もかもが他の女子とは違っていた。
愛想がなく、誰とも必要以上に馴れ合わない。いつも慎重で、距離を測るような目をしている。
ふわりと柔らかそうに見えて、でも気を許さず、少しでも危険を感じればすぐに逃げ出しそうな姿は、まるで子うさぎみたいだった。
誰とでも気軽に絡める自分には、縁のないタイプだと思っていた。人付き合いも、恋愛も、もっと“わかりやすい”相手とするものだと、どこかで割り切っていた。
けれど──
なぜか、気づけば目で追っていた。
同じ講義に出ていても、視線が交わることはない。共に過ごすグループも違うし、話すこともない。
それでもふとした拍子に、講義室の隅に座る彼女を探してしまう自分がいた。
何が気になったのか、理由なんてよく分からない。
風に靡くといいにおいのしそうな艶やかな髪か。いつも飾り気のない服装で、アクセサリー類も一切つけていないのに、ふとした所作や纏う空気に育ちの良さが滲む姿がそうさせたのか。
たまにすれ違ったときに挨拶をすると、ぴくりとも笑わない真顔で「おはようございます」と敬語で返されたこともあった。さすがにその時は、思わず笑った。
──それでも、気になってしまったものは仕方がなかった。