借金令嬢は異世界でカフェを開きます

第7話 告げられない気持ち

 傷を押さえやすいようにだろう。オズワルドがグレースの頭を抱え込むように自分の胸に押し当てる。まるで抱擁されているような体勢だが、グレースは(罰が当たったんだ)と震えた。

 夕食を一緒に食べるようになってから二週間ちょっと。
 一時的な仕事であるはずのその時間が、今ではグレースの一番幸せなひと時になっていた。

  ――ある日食事中の何気ない会話から、彼はグレースに食事をとらせるために、こうやって来てくれるのでは? ということに気付いてしまった。でも気付かないふりで、これは仕事だと自分に言い訳をした。
 一日の終わりに三人で食事をすると嬉しかったから。幸せだったから……。

 でもそんな幸せを感じてはいけなかった。
 恋をする資格などないのだから、誰かに気付かれてしまう危険を冒してはいけなかった。
 浮かれていたから、タナーがあんな男たちを送り込んできたのかもしれない。

 期限内に借金の完済をすることは無理だ。あきらめたほうがいい。
 顧問弁護士の言葉が大きくのしかかって来る。

(でも娼婦なんて嫌!)

 愛人どころか、グレースを事業に利用する娼婦にしようと考えてることを知って震えが止まらない。男たちの卑猥な言葉の数々に、嫌らしいジェスチャーに、文字通りグレースの目の前が暗くなった。
 ねちゃりとした男の唇の感触を思い出し、ごしごしと乱暴にこする。
 自分が汚れたと思った。どうしようもなく汚い存在になってしまった。
 そう思うからオズワルドから離れようとするのに、彼は離してくれない。

「グレース、よしなさい。そんなにこするから血が出てしまったじゃないですか」

 悲しそうな目をして、指でグレースの唇をぬぐう。その優しい感触に胸が震えた。
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