私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
第七章
月日は流れ、街路樹の葉が、冷たい風に吹かれて寂しげに舞い散る季節になった。
十一月の中旬。涼介からの連絡はまだない。だけど不思議と私の心は穏やかだった。あの日のように、出口のない暗闇で泣き暮らすことはもうなくなった。
「凛さん聞いてくださいよー!」
この日は菜穂に誘われ、唯ちゃんと健、そして一ノ瀬の五人で、少しだけ高級な、個室のあるもつ鍋屋さんに来ていた。
「どうしたの?唯ちゃん」
「この前マッチングアプリで会った人が、外資系コンサルっていうから期待したんですよ? なのに、お店の予約もしてないし、自分の仕事の話ばっかりだし、挙句の果てに靴下がヨレヨレだったんです! ありえなくないですか!」
醤油とニンニクの香ばしい匂いが立ち上る鍋を囲みながら、唯ちゃんが憤慨したように恋愛の愚痴をまくしたてる。その勢いに、鍋の湯気まで揺れているようだった。
「靴下よれよれはないわー。てか、唯って男運ないよね」
手酌でビールを継ぎ足しながら、菜穂が冷静に突っ込む。健もその隣で「それは男がださいな」と頷いている。いつもの賑やかな光景を、私は微笑ましく眺めていた。
「凛さんだったら、どうします?木崎さんの靴下がもし、よれよれだったら。やっぱり百年の恋も冷めますか?」
「ないない。王子に限ってそれはないから」