私の愛すべき人～その別れに、愛を添えて～

第八章

鳴り止まない、無機質な電子音。切れては鳴り、切れてはまた鳴りを繰り返す。

テーブルの上に置いていたはずのスマートフォンは、その狂ったような振動に耐えきれず、いつしかカーペットの上へと滑り落ちていた。

もう何時間も、私は頭から毛布をかぶり、ベッドの隅で、その音に自分の泣き声を重ねていた。

そっと毛布の隙間から、震える手でカーテンを開ける。窓の外には、夜空を切り裂くような、細く、鋭い月が浮かんでいる。その冷たい光は、まるで、あの時の沙羅さんの瞳のようだ。

私の全てを見透かし、嘲笑うかのような、嫉妬の色を宿した、あの深い瞳。

〝私達、結婚するから〟

「っ……！」

勢いよくカーテンを閉めると、私はまた毛布を被り、ベッドに突っ伏した。

耳を塞いでも、目を閉じても、彼女の声が、彼女の顔が、頭から離れない。

涼介、今なにしてるの？結婚式の、準備でもしてる？

マンションのエントランスで見た、あの時みたいな優しい笑顔で、ドレスでも選んでいる？

もう、あなたの中に、私はいないんだね。その残酷な事実だけが、私の胸にずっしりと沈んでいく。

毛布を固く握りしめ、ただ、子供のように声を殺して泣き続ける。その時だった。

ピンポーン───

静寂を切り裂くように、玄関のチャイムが甲高く鳴り響いた。

ドンドンドン！！！ピンポン！ピンポン！ピンポーン！！