私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
最終章

その日から一週間後。

大阪へ行く涼介を見送るため、私は空港に来ていた。仕事はすぐに辞められないため、私は後で行くことになっている。

引っ越し作業はすべて業者に任せているという彼は、ほとんど手ぶらに近い。私たちは慣れない空港の喧騒の中を、手を繋いで歩いていた。

「大阪といえば、お好み焼きでしょ? それからたこ焼きに串カツに〜……あと何があるんだっけ?」
「食べ物ばっかじゃん。凛て、意外と食いしん坊だよなー」
「食いしん坊って! 失礼な」

彼の隣で、指折り数えながらはしゃぐ私を、涼介が笑いながらどこまでも優しい視線を向けている。

生まれてこのかた、地元を出たことのない私にとって、見知らぬ土地での生活はやはり不安が大きい。

だけどこの温かい眼差しと、繋がれた手から伝わる確かな包容力に、この人と一緒だったらきっと大丈夫だと、自然とそう思えた。

搭乗口まであと少し。それに気づくと、お互いの足取りが少しずつ、少しずつ、重たくなっていった。

「凛、飛行機一人で乗れる? 乗り間違えるなよ。俺、心配だなぁ」
「乗れるってば。子供じゃないんだから」

口を尖らせ涼介を見上げると、クスクスと、いつもの優しい笑い声が耳に届いた。
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