私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
第一章


病院の朝は忙しい。とくに連休明けともなると、人でごった返しトラブルも発生しがち。

予約表を確認する限り、今日の紹介患者は五百人を超えている。うちのような総合病院ではめずらしくない人数だが、ゴールデンウイーク明けにこの数をこなせとなると、体力的にきついものがある。

といっても彼氏なし、実家暮らしのゴールデンウィークなんて、世間のみなさまがご想像する通り。朝から晩まで配信を見て、お腹すいたらお母さんの作ったご飯を食べて、またゴロゴロしての繰り返しを計5日。

お陰でこの数日で少し太ったような気さえする。朝制服のスカートが微妙にきつかったのだ。

私、冴島凛はここY総合病院の受付で働く25歳。いたって平凡な容姿に、特にこれといった特技はなく。毎日慎ましやかに過ごしている。

ちなみに彼氏はここ二年ほどいない。努力もせず、毎日家と会社の往復じゃそうなるのは必然といえば必然。

そろそろ本腰入れて、マッチングアプリでもやってみようかなーと思っているところだ。

「おはよ。凛」

あくびを噛み殺しながら私の隣の席に着いたのは、同期の相沢菜穂。目がクリッとしていて、小柄な彼女は見た目に寄らず中身は親父というギャップの持ち主。酒好きでちょっと口が悪いところがあるが、気の合う友達だ。

「おはよ、菜穂。ゴールデンウイークは楽しめた?」
「健(たける)とずっと飲んでた」
「相変わらずだね、幼馴染コンビ」

そう突っ込めば「コンビとかやめてよ」と反論が返ってくる。

健と菜穂は幼稚園の頃からの幼馴染で、今もよくつるんでいるとか。でも付き合っているわけではないらしい。

健には何度か会ったことがあるが、菜穂を見る彼の目は、ただの幼馴染に向けるものとは、少し違うような気がしている。

美人なのに恋愛にいまいち興味がない菜穂は、そのことに恐らく気づいていないだろうけど。

「そういえばさっき廊下で見かけたよ。凛の王子様」
「え? 本当?」
「医局に向かってたんじゃない? 朝早くから大変だよね、営業さんは」

言いながらカタカタとパソコンを打ち始める菜穂。

彼女が言う王子様というのは、私がずっと憧れている医療機器メーカーの木崎(きざき)さんだ。

名字しか知らず、たまに廊下ですれ違う程度で、おそらく彼に認識されている可能性は低い。

彼がこの病院に出入りするようになったのは、半年前。外科外来の場所を尋ねられ、その時初めて会話してから密かに来るのを楽しみにしている。

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