私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
第二章


翌日、私は丁寧にアイロンをかけたハンカチを持って、朝から木崎さんが来るのを受付で今か今かと待っていた。

パーティーではとんだ災難に巻き込まれてしまったが、木崎さんと再び話すチャンスをもらえ、正直棚からぼたもちだと感じている。

きっとあんなことがなければ、一生陰で指をくわえて見ているだけだったに違いない。唯ちゃんというやや破天荒なキューピッドに感謝だ。

「王子。来た?」

昼休みから戻った菜穂が、キョロキョロと視線をさ迷わせる私の肩を、勢いよく叩いた。
私はかぶりを振りながら、ゆっくりと菜穂のほうを振り返る。

「まだ。今日は来ないのかも」
「毎日きてるわけじゃなさそうだもんねー」

コキコキと首を鳴らしながら、受付の椅子に座る菜穂。

私も昼休憩に入らないといけないが、正直それどころじゃない。なにせ、昨日からずっと彼が来たときのことを考え、シュミレーションをしてきたのだから。

まずはこの前のお礼を言い、雑談をする。暑いですね、忙しいですか? などなど。そのあと、さりげなく連絡先を聞く。もちろん、わざとらしくならないように、言い訳も考えてきた。

今後もし、急ぎで必要な物品があったら連絡したいから、という理由だ。我ながら苦しい言い訳だが、それくらいしか思いつかなかったのだ。

「凛、ごはん行ってきなよ」
「……そうしようかな」

菜穂に促され受付を後にする。もちろん、ハンカチも持って。

「何かお礼の品もつけたほうがよかったかなぁ」

独りぼやきながら、廊下を歩く。でもいきなりプレゼントなんてもらったら怖いよね。

「おっ、と」
「わっ……!」

角を曲がったところで誰かと出合い頭にぶつかりそうになった。慌てて謝りながら、後ずさる。

「すみません!!」

ぼんやりするあまり、全然前を見てなかった。病気の患者さんだったらどうしよう……。

< 22 / 190 >

この作品をシェア

pagetop