私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
第二章
翌日、私は丁寧にアイロンをかけたハンカチを持って、朝から木崎さんが来るのを受付で今か今かと待っていた。
パーティーではとんだ災難に巻き込まれてしまったが、木崎さんと再び話すチャンスをもらえ、正直棚からぼたもちだと感じている。
きっとあんなことがなければ、一生陰で指をくわえて見ているだけだったに違いない。唯ちゃんというやや破天荒なキューピッドに感謝だ。
「王子。来た?」
昼休みから戻った菜穂が、キョロキョロと視線をさ迷わせる私の肩を、勢いよく叩いた。
私はかぶりを振りながら、ゆっくりと菜穂のほうを振り返る。
「まだ。今日は来ないのかも」
「毎日きてるわけじゃなさそうだもんねー」
コキコキと首を鳴らしながら、受付の椅子に座る菜穂。
私も昼休憩に入らないといけないが、正直それどころじゃない。なにせ、昨日からずっと彼が来たときのことを考え、シュミレーションをしてきたのだから。
まずはこの前のお礼を言い、雑談をする。暑いですね、忙しいですか? などなど。そのあと、さりげなく連絡先を聞く。もちろん、わざとらしくならないように、言い訳も考えてきた。
今後もし、急ぎで必要な物品があったら連絡したいから、という理由だ。我ながら苦しい言い訳だが、それくらいしか思いつかなかったのだ。
「凛、ごはん行ってきなよ」
「……そうしようかな」
菜穂に促され受付を後にする。もちろん、ハンカチも持って。
「何かお礼の品もつけたほうがよかったかなぁ」
独りぼやきながら、廊下を歩く。でもいきなりプレゼントなんてもらったら怖いよね。
「おっ、と」
「わっ……!」
角を曲がったところで誰かと出合い頭にぶつかりそうになった。慌てて謝りながら、後ずさる。
「すみません!!」
ぼんやりするあまり、全然前を見てなかった。病気の患者さんだったらどうしよう……。