私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
第五章

どこまでも続く青い空と、打ち寄せる波の音。肌を撫でる潮風が、初夏の気配を運んでくる。

約束の日曜日。私は、涼介と初めてデートしたあの日の装いで、砂浜に足を踏み入れていた。

風を通しにくい長袖のブラウスに、動きにくいタイトスカート。明らかに季節外れで、肌はすでにじっとりと汗ばんでいる。

自分でも馬鹿げているとは思う。でもこの恋が始まったお守りのような服で、今日は彼と会いたいと、昨日から心に決めていたのだ。
窮屈なサンダルを脱ぎ捨て、裸足になる。打ち寄せる波でしっとりと湿った砂浜をゆっくりと歩くと、足元から心地よい冷たさが伝わってきた。波が足首を洗い、きめ細やかな砂が指の間をくすぐる。

「気持ちいい」

思わず、海のほうまで駆け出す。このまま、あの水平線の先まで走っていけそうなほどの解放感。

「ひゃっ……!」

その時、不意に強い浜風が吹きつけ、咄嗟に両手で帽子を抑える。

ふと、風になびく髪に逆らうように後ろを振り返ると、少し離れた場所に、涼介がこっちを見ながら佇んでいた。

「涼介も裸足になったら?」

精一杯の声を張り上げ、彼を呼ぶ。 しかし、彼は静かに首を横に振った。

「俺はいいよ」

ポケットに手を突っ込み、ただ遠くの海を眺めている涼介。

七分丈のパンツにポロシャツというラフな出で立ちなのに、何を着ても様になるのが彼のズルいところだ。

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