私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
第六章
涼介と別れて、一か月が経った。
あの日から世界から色が失われたように灰色がかっていたが、それも時間と共に徐々に色を取り戻しつつあった。
とはいえ、眠れない夜もあったり、「凛」と呼んでくれたあの耳に残る柔らかい声音が、いつまでも頭から離れてくれない日もあったりする。
一緒に過ごした時間はたった数か月なのに、彼の存在は今も色濃く、私の中に根を張っていることに嫌でも気づかされた。
それでも仕事だけは休まず、毎日真面目に取り組んでいる。課長のすすめで、最近は資格の勉強もし始めた。
仕事に没頭していると、嫌なことも忘れられたし、今の私にはここが安息の場所だといえる。
「ふぅ、間に合った。危ない危ない」
始業時間10分前、ドタバタと遅刻ぎりぎりで医事課に入って来た菜穂が、すでにスタンバイする私の隣に、あがった息を整えながら立つ。顔にはわずかに汗がにじんでいて、かなり慌ててきたのが分かった。
「おはよ、菜穂」
「凛、おはよ。あ、そうそう。さっき唯と話してたんだけど、今日仕事終わったら三人でごはんでもいかない?新しくできたイタリアン!」
「いいね、行く」
即答する私を見て、菜穂は嬉しそうに笑う。
最近ではこうやって誘われたら必ず行くようになった。
この前も三人でホテルのケーキバイキングに行って、山盛りのケーキを前に写真を撮って、くだらない話で涙が出るほど笑い合った。そのあとカラオケで、めちゃくちゃな音程で叫ぶように歌った。