【書籍化】死んだことにして逃げませんか? 私、ちょっとした魔法が使えるんです。
プロポーズ
それから程なく、花壇で花の世話をするヘンドリックスの元を訪れたミリアムは、ずっと気がかりだった、ルーベン領に統合された、旧ファンベルス領への賠償について相談することにした。
領地が荒れていく様子を見かねたルーベン新侯爵が、密かに領民たちを保護してくれていた事や、騙されて事件になってしまったが、事の発端は領民たちがミリアムを何とかして助けようとした結果だった事を話し、宙に浮いたままのミリアムの個人資産と受け継いだ母アグネスの持参金の一部をそれに充てたいと伝えた。
ヘンドリックスはじっとその話を聞き、ミリアムを眩しそうに見つめて言った。
「ミリアムに全て任せるよ。ありがとう」
◇◇◇
ミリィ・ポラーニ侯爵令嬢として面会を求め、訪問したミリィから、亡くなった三人の賠償金の代わりとしてミリアムの遺産を提示されたルーベン新侯爵はその受け取りを固辞した。
しかし、領を救うために奔走したミリアムの遺志を受け取って欲しいと重ねてミリィから懇願され、それなら、旧ファンベルス領の領民たちと相談して、旧領地の為に使わせてもらうと言って受け取ったのだ。
後日、ルーベン新侯爵からミリィ・ポラーニ侯爵令嬢宛ての手紙をエルネストから手渡された。そこにはあの織物工場を再建したと記載されており、工場の中にミリアム嬢の銅像を建立したから、その落成式にぜひ来てほしいと、招待状が同封されていた。
「銅像…」
呆然と呟いたミリアムを他所に、招待状を見たウルリカと侍女チームは歓声を上げて大盛り上がりで、落成式の衣装に付いて検討を始め、レジナを頭に乗せたマーシュはニルスとどんな銅像か想像し合ってキャッキャと楽しそうに話している。
そんな様子を、困惑顔で見つめているミリアムに寄り添って顔を覗き込んだウィレムは、いつもの無表情だけど、銀色の光を纏った深く碧い瞳は心なしか誇らしげだ。
「領地の為に奔走した(ミリアム嬢)の生きた証だと思う。献身を認めてくれた領民たちの好意を汲んで、ありがたく招待を受けよう」
手紙を届けに来たエルネストも、ミリアムの頭をぽんぽんと撫でて言った。
「ミリィの新しい人生の門出にする良い機会じゃないか。(ミリアム)は本当に頑張ったんだ。彼女をしっかり褒めて、胸を張って心残りなく見届けておいで」
そう言われ、婚約者となったウィレムのエスコートで落成式典に参加したのだ。
式典で、ルーベン侯爵に紹介されて壇上に上がったミリィ・ポラーニ侯爵令嬢を見た元領民たちは皆息を呑み、かつて慕ったお嬢様に生き写しだと涙を浮かべる者も多く居た。その姿を見て、やはり心がちくりと痛んだ。その心情を見て取ったウィレムがそっと背中を撫でてくれた。
銅像のお披露目となり、儀式の様に覆いを取り去られた銅像は、真っ白な大理石で出来ており、胸の前で手を組んでベールを被った、まるで聖女のような立像だった。
(ずいぶん美化されているわね)
心の中で苦笑いしつつも、(ミリアム)を皆が認めてくれた事が嬉しく、そして同時に誇らしかった。銅像にそっと手を触れると、自然に労いの言葉が零れた。
「良かったわね、ミリアム」
その言葉に、会場から拍手が沸き起こった。皆からの温かな思いに包まれて式典は無事に終了した。
織物工場の見学を終え、皆を労って別れを告げようとした時、工場長から大きな包みを渡された。
「こちらは、ミリアムお嬢様のデビュタントの為に織工が丹精を込めて織った生地です。もしよろしければ、ミリイ様にお使いいただけませんでしょうか」
包みを開いて広げられた生地は、素晴らしい光沢を放つ純白のシルクの生地だった。
「これは素晴らしいな、これほどの生地は初めて見た」
目を瞠り、工場長にそう言って生地を手に取ったウィレムは、ミリアムを振り返って続けた。
「ミリィ、この生地で仕立てたウエディングドレスを着た君を見たいのだが、どうだろう」
その言葉に、思わず顔が赤くなったミリアムだったが、飛び切りの笑顔を工場長と織工たちに向けて言った。
「ええ、喜んで。この生地で仕立てたウエディングドレスを着れば、ミリアムもきっと喜んでくれるわ。皆の気持ちをありがたく受け取らせてもらうわね。私、必ず幸せになるわ」
顔を覆って泣いている皆に『ありがとう』と手を振って、ウィレムとミリアムは織物工場を後にした。
帰りの馬車の中で、ウィレムは大切そうに包みを抱え、ミリアムの手を握って満足そうに座っている。
婚約はしたものの、式の日取りはまだ決まっていない。なんだか少しずつ外堀を埋められている気がするミリアムだが、もう少しだけ待って欲しい。ウィレムの洗練された魔法に見合うように、せめて恥ずかしくない自分になりたいのだ。
エルネストの言葉通り、式典に参加した事で、自分でも驚く程すんなりとかつての自分だった(ミリアム)を昇華する事が出来たと思う。これからはジラード王国の魔法士、ミリィ・ポラーニとして生きていくのだ。
魔法の美しさに掛けては王妃の右に出る者はいない。ミリアムはその優雅さにすっかり魅せられているのだ。
「いつでも相談にいらっしゃい」
そう言って優しく迎えてくれる王妃様のお言葉に甘えて、ミリアムは今日もニルスと一緒に王宮にやって来た。このお方に少しでも近づきたい、そうすれば…
魔法の調整の指導を受けた後のお茶の時間、仲良しのルビーとニルスはぱたぱた羽音を立てて追いかけっこをして遊んでいる。
「そう言えば、ウエディングドレスの生地が手に入ったのでしょう? ファンベルス産のシルクの品質の良さはジラード国でも有名よ。その中でも選りすぐりの特別な生地なんだってウィレム卿に自慢されたわ。私も皆もミリィの花嫁姿をとても楽しみにしているのよ」
やっぱり外堀を埋められてる。苦笑いを浮かべたミリアムに、王妃はくすりと笑って続けた。
「魔法使いとして上を目指すのはとても良い事よ。しかもそれがウィレム卿に相応しくありたいから、というのも素敵だと思うわ。でも研鑽は結婚してからでも出来るのよ。私が最たるものだもの。ねえ」
そう言って目を向けた王妃に、王弟妃はいたずらっ子のような笑みを浮かべて言った。
「ええ、王妃様の優雅さは、ご結婚されてから身に付けられたものですよ。それまでは、身なりを整えるよりもひたすら魔法の研究に時間を費やしていましたものね」
くすくすと笑う王弟妃に、ちょっと肩を竦めて王妃は言った。
「そうよ、その魔法の研究が認められて王太子妃に選ばれたの。だけどそれからが大変だったのよ。毎日毎日着飾られてひたすら王太子妃教育だもの。許可が出るまで魔法を禁じられてしまった事もあったのよ」
遠い目をした王弟妃が懐かしそうに言った。
「それはそうでしょう。理由も告げず大切な公務も何もかも放り出して部屋に籠ったりするんですもの」
「あれは仕方なかったのよ。王家に伝わる結婚指輪の宝石の内包に良くない魔力が封じられているのに気づいてしまったんだもの。あれが原因で歴代王と王妃が短命だったのよ。あの時の私は、王太子妃としてはまだまだでも、努力する私を認めてくれた殿下や両陛下に長生きしてもらいたい一心だったの。それに自分も長生きして魔法をもっと極めたかったしね。後で言えば良いと思って誰にも言わずに突っ走ってしまった事は反省してるわ。その為に皆にとても迷惑を掛けたし、誤解も生んでしまったしね」
あまりの内容にミリアムが二人を見つめていると、王妃がふわりと笑った。
「愛する人の為にする努力はちゃんと伝えなくちゃだめよ? 良かれと思った事が独りよがりになってしまうと不幸な結果になってしまう事もあるわ。何がお互いにとって幸せか、ウィレム卿と話し合ってみてね」
ミリアムを送り出した後、王妃は王弟妃に言った。
「ちょっとおせっかいだったかしらね。つい老婆心が出てしまったわ」
王弟妃は王妃の背中を摩りながら言った。
「いいえ、王妃様だからこそ出来る助言だったと思いますよ。あの時、指輪の浄化が確認されるまで、幽閉されていた貴方を信じて庇っていた陛下の姿は、今でも私の心に焼き付いていますもの」
そう言って顔を見合わせて微笑み合い、旧友の忘れ形見の幸せを祈った。
王妃の助言を受けたミリアムは、ウィレムの元を訪れて今の気持ちを正直に伝えた。
ウィレムに相応しい女性になる為にもっと魔法を磨かなければと思っている事を告げられたウィレムは、感激したようにミリアムの手を取って言ってくれた。
「魔法しか取り柄の無い私こそ、ミリィの温かな人柄に相応しくありたいと思っているんだ。花たちにバラされているかもしれないが、毎日鏡の前で表情を柔らかくする訓練をしている。これからはお互いに協力して頑張らないか? その方が早く二人の理想に近づけると思うんだ」
そう言って手を取ったままミリアムの前に跪くと、姿勢を正してまっすぐに目を見つめて請われた。
「ミリィ・ポラーニ侯爵令嬢、どうか私と結婚してください」
ミリアムもウィレムの目をみつめ、花の綻ぶような笑顔を向けて返事をした。
「はい、喜んでお受けいたします。どうぞ末永くよろしくお願いします」
感極まってミリアムを抱きしめたウィレムと、その腕の中で幸せを噛み締めるミリアムを祝福するように、二人の間に挟まれたあのペンダントは淡い光を放っていた。
その日の夕食後のお茶の席で、改めてプロポーズの返事をもらったと報告したウィレムとミリアムは、邸中の皆に祝福を受けた。ウルリカはミリアムを抱きしめてお祝いの言葉を掛け、エルネストはウィレムと固い握手を交わしている。離れで暮らしているヘンドリックスも急遽呼ばれ、話を聞いてウィレムとミリアムの手を取り、涙ながらに二人に告げた。
「ウィレム様、ミリィ様、おめでとうございます。お二人のお幸せを、私は未来永劫祈り続けます」
ヘンドリックスの手を両手で握ったミリアムに、ヘンドリックスは囁くように寿いだ。
「ミリアム、本当におめでとう。ウィレム卿と幸せになるんだよ」
領地が荒れていく様子を見かねたルーベン新侯爵が、密かに領民たちを保護してくれていた事や、騙されて事件になってしまったが、事の発端は領民たちがミリアムを何とかして助けようとした結果だった事を話し、宙に浮いたままのミリアムの個人資産と受け継いだ母アグネスの持参金の一部をそれに充てたいと伝えた。
ヘンドリックスはじっとその話を聞き、ミリアムを眩しそうに見つめて言った。
「ミリアムに全て任せるよ。ありがとう」
◇◇◇
ミリィ・ポラーニ侯爵令嬢として面会を求め、訪問したミリィから、亡くなった三人の賠償金の代わりとしてミリアムの遺産を提示されたルーベン新侯爵はその受け取りを固辞した。
しかし、領を救うために奔走したミリアムの遺志を受け取って欲しいと重ねてミリィから懇願され、それなら、旧ファンベルス領の領民たちと相談して、旧領地の為に使わせてもらうと言って受け取ったのだ。
後日、ルーベン新侯爵からミリィ・ポラーニ侯爵令嬢宛ての手紙をエルネストから手渡された。そこにはあの織物工場を再建したと記載されており、工場の中にミリアム嬢の銅像を建立したから、その落成式にぜひ来てほしいと、招待状が同封されていた。
「銅像…」
呆然と呟いたミリアムを他所に、招待状を見たウルリカと侍女チームは歓声を上げて大盛り上がりで、落成式の衣装に付いて検討を始め、レジナを頭に乗せたマーシュはニルスとどんな銅像か想像し合ってキャッキャと楽しそうに話している。
そんな様子を、困惑顔で見つめているミリアムに寄り添って顔を覗き込んだウィレムは、いつもの無表情だけど、銀色の光を纏った深く碧い瞳は心なしか誇らしげだ。
「領地の為に奔走した(ミリアム嬢)の生きた証だと思う。献身を認めてくれた領民たちの好意を汲んで、ありがたく招待を受けよう」
手紙を届けに来たエルネストも、ミリアムの頭をぽんぽんと撫でて言った。
「ミリィの新しい人生の門出にする良い機会じゃないか。(ミリアム)は本当に頑張ったんだ。彼女をしっかり褒めて、胸を張って心残りなく見届けておいで」
そう言われ、婚約者となったウィレムのエスコートで落成式典に参加したのだ。
式典で、ルーベン侯爵に紹介されて壇上に上がったミリィ・ポラーニ侯爵令嬢を見た元領民たちは皆息を呑み、かつて慕ったお嬢様に生き写しだと涙を浮かべる者も多く居た。その姿を見て、やはり心がちくりと痛んだ。その心情を見て取ったウィレムがそっと背中を撫でてくれた。
銅像のお披露目となり、儀式の様に覆いを取り去られた銅像は、真っ白な大理石で出来ており、胸の前で手を組んでベールを被った、まるで聖女のような立像だった。
(ずいぶん美化されているわね)
心の中で苦笑いしつつも、(ミリアム)を皆が認めてくれた事が嬉しく、そして同時に誇らしかった。銅像にそっと手を触れると、自然に労いの言葉が零れた。
「良かったわね、ミリアム」
その言葉に、会場から拍手が沸き起こった。皆からの温かな思いに包まれて式典は無事に終了した。
織物工場の見学を終え、皆を労って別れを告げようとした時、工場長から大きな包みを渡された。
「こちらは、ミリアムお嬢様のデビュタントの為に織工が丹精を込めて織った生地です。もしよろしければ、ミリイ様にお使いいただけませんでしょうか」
包みを開いて広げられた生地は、素晴らしい光沢を放つ純白のシルクの生地だった。
「これは素晴らしいな、これほどの生地は初めて見た」
目を瞠り、工場長にそう言って生地を手に取ったウィレムは、ミリアムを振り返って続けた。
「ミリィ、この生地で仕立てたウエディングドレスを着た君を見たいのだが、どうだろう」
その言葉に、思わず顔が赤くなったミリアムだったが、飛び切りの笑顔を工場長と織工たちに向けて言った。
「ええ、喜んで。この生地で仕立てたウエディングドレスを着れば、ミリアムもきっと喜んでくれるわ。皆の気持ちをありがたく受け取らせてもらうわね。私、必ず幸せになるわ」
顔を覆って泣いている皆に『ありがとう』と手を振って、ウィレムとミリアムは織物工場を後にした。
帰りの馬車の中で、ウィレムは大切そうに包みを抱え、ミリアムの手を握って満足そうに座っている。
婚約はしたものの、式の日取りはまだ決まっていない。なんだか少しずつ外堀を埋められている気がするミリアムだが、もう少しだけ待って欲しい。ウィレムの洗練された魔法に見合うように、せめて恥ずかしくない自分になりたいのだ。
エルネストの言葉通り、式典に参加した事で、自分でも驚く程すんなりとかつての自分だった(ミリアム)を昇華する事が出来たと思う。これからはジラード王国の魔法士、ミリィ・ポラーニとして生きていくのだ。
魔法の美しさに掛けては王妃の右に出る者はいない。ミリアムはその優雅さにすっかり魅せられているのだ。
「いつでも相談にいらっしゃい」
そう言って優しく迎えてくれる王妃様のお言葉に甘えて、ミリアムは今日もニルスと一緒に王宮にやって来た。このお方に少しでも近づきたい、そうすれば…
魔法の調整の指導を受けた後のお茶の時間、仲良しのルビーとニルスはぱたぱた羽音を立てて追いかけっこをして遊んでいる。
「そう言えば、ウエディングドレスの生地が手に入ったのでしょう? ファンベルス産のシルクの品質の良さはジラード国でも有名よ。その中でも選りすぐりの特別な生地なんだってウィレム卿に自慢されたわ。私も皆もミリィの花嫁姿をとても楽しみにしているのよ」
やっぱり外堀を埋められてる。苦笑いを浮かべたミリアムに、王妃はくすりと笑って続けた。
「魔法使いとして上を目指すのはとても良い事よ。しかもそれがウィレム卿に相応しくありたいから、というのも素敵だと思うわ。でも研鑽は結婚してからでも出来るのよ。私が最たるものだもの。ねえ」
そう言って目を向けた王妃に、王弟妃はいたずらっ子のような笑みを浮かべて言った。
「ええ、王妃様の優雅さは、ご結婚されてから身に付けられたものですよ。それまでは、身なりを整えるよりもひたすら魔法の研究に時間を費やしていましたものね」
くすくすと笑う王弟妃に、ちょっと肩を竦めて王妃は言った。
「そうよ、その魔法の研究が認められて王太子妃に選ばれたの。だけどそれからが大変だったのよ。毎日毎日着飾られてひたすら王太子妃教育だもの。許可が出るまで魔法を禁じられてしまった事もあったのよ」
遠い目をした王弟妃が懐かしそうに言った。
「それはそうでしょう。理由も告げず大切な公務も何もかも放り出して部屋に籠ったりするんですもの」
「あれは仕方なかったのよ。王家に伝わる結婚指輪の宝石の内包に良くない魔力が封じられているのに気づいてしまったんだもの。あれが原因で歴代王と王妃が短命だったのよ。あの時の私は、王太子妃としてはまだまだでも、努力する私を認めてくれた殿下や両陛下に長生きしてもらいたい一心だったの。それに自分も長生きして魔法をもっと極めたかったしね。後で言えば良いと思って誰にも言わずに突っ走ってしまった事は反省してるわ。その為に皆にとても迷惑を掛けたし、誤解も生んでしまったしね」
あまりの内容にミリアムが二人を見つめていると、王妃がふわりと笑った。
「愛する人の為にする努力はちゃんと伝えなくちゃだめよ? 良かれと思った事が独りよがりになってしまうと不幸な結果になってしまう事もあるわ。何がお互いにとって幸せか、ウィレム卿と話し合ってみてね」
ミリアムを送り出した後、王妃は王弟妃に言った。
「ちょっとおせっかいだったかしらね。つい老婆心が出てしまったわ」
王弟妃は王妃の背中を摩りながら言った。
「いいえ、王妃様だからこそ出来る助言だったと思いますよ。あの時、指輪の浄化が確認されるまで、幽閉されていた貴方を信じて庇っていた陛下の姿は、今でも私の心に焼き付いていますもの」
そう言って顔を見合わせて微笑み合い、旧友の忘れ形見の幸せを祈った。
王妃の助言を受けたミリアムは、ウィレムの元を訪れて今の気持ちを正直に伝えた。
ウィレムに相応しい女性になる為にもっと魔法を磨かなければと思っている事を告げられたウィレムは、感激したようにミリアムの手を取って言ってくれた。
「魔法しか取り柄の無い私こそ、ミリィの温かな人柄に相応しくありたいと思っているんだ。花たちにバラされているかもしれないが、毎日鏡の前で表情を柔らかくする訓練をしている。これからはお互いに協力して頑張らないか? その方が早く二人の理想に近づけると思うんだ」
そう言って手を取ったままミリアムの前に跪くと、姿勢を正してまっすぐに目を見つめて請われた。
「ミリィ・ポラーニ侯爵令嬢、どうか私と結婚してください」
ミリアムもウィレムの目をみつめ、花の綻ぶような笑顔を向けて返事をした。
「はい、喜んでお受けいたします。どうぞ末永くよろしくお願いします」
感極まってミリアムを抱きしめたウィレムと、その腕の中で幸せを噛み締めるミリアムを祝福するように、二人の間に挟まれたあのペンダントは淡い光を放っていた。
その日の夕食後のお茶の席で、改めてプロポーズの返事をもらったと報告したウィレムとミリアムは、邸中の皆に祝福を受けた。ウルリカはミリアムを抱きしめてお祝いの言葉を掛け、エルネストはウィレムと固い握手を交わしている。離れで暮らしているヘンドリックスも急遽呼ばれ、話を聞いてウィレムとミリアムの手を取り、涙ながらに二人に告げた。
「ウィレム様、ミリィ様、おめでとうございます。お二人のお幸せを、私は未来永劫祈り続けます」
ヘンドリックスの手を両手で握ったミリアムに、ヘンドリックスは囁くように寿いだ。
「ミリアム、本当におめでとう。ウィレム卿と幸せになるんだよ」