『愛してるの一言がほしくて ―幼なじみ新婚はすれ違いだらけ―』
第19章 「それぞれの胸の痛み」
廊下で向き合った瞬間、
志穂の胸に、昨夜の声がよみがえった。
『……行かないでくれ……』
震えた悠真の声。
あれは嘘じゃなかった。
確かに“止めて”くれた。
(なのに……どうして私は、
まだこんなに苦しいんだろう)
志穂は深く息を吸い、
震えそうな声を抑えながら言った。
「昨日……止めてくれましたよね」
悠真の肩が、ぴくりと揺れた。
「……ああ。
あれは……」
(本気なら……なんで何も言ってくれないの)
そんな思いが胸で渦を巻く。
「でも……
少しだけ……実家に帰ります」
悠真の喉がひくりと動いた。
昨日は必死に止めた。
そして今日は——
その変化が、いちばん苦しい。
志穂は、最後の望みを込めて言った。
「……昨日みたいに、
“行かないでくれ”って……
今日は言ってくれないんですね?」
悠真は、苦しそうに目を伏せた。
「……言ったところで……
おまえを苦しめるだけだ」
その言葉は優しさなのに、
志穂の胸を深く刺す。
(やっぱり……
私を引き止めるほどの気持ちは……
ないんだ……)
「……そうですか」
志穂は小さく微笑んだ。
泣かないように必死で。
「じゃあ……行ってきますね。
少しだけ……」
悠真は言いたくて、でも言えない。
喉が震えている。
昨夜は叫べたのに。
今日は声にならない。
その違いが、
ふたりの距離をさらに遠ざけていった。
志穂の胸に、昨夜の声がよみがえった。
『……行かないでくれ……』
震えた悠真の声。
あれは嘘じゃなかった。
確かに“止めて”くれた。
(なのに……どうして私は、
まだこんなに苦しいんだろう)
志穂は深く息を吸い、
震えそうな声を抑えながら言った。
「昨日……止めてくれましたよね」
悠真の肩が、ぴくりと揺れた。
「……ああ。
あれは……」
(本気なら……なんで何も言ってくれないの)
そんな思いが胸で渦を巻く。
「でも……
少しだけ……実家に帰ります」
悠真の喉がひくりと動いた。
昨日は必死に止めた。
そして今日は——
その変化が、いちばん苦しい。
志穂は、最後の望みを込めて言った。
「……昨日みたいに、
“行かないでくれ”って……
今日は言ってくれないんですね?」
悠真は、苦しそうに目を伏せた。
「……言ったところで……
おまえを苦しめるだけだ」
その言葉は優しさなのに、
志穂の胸を深く刺す。
(やっぱり……
私を引き止めるほどの気持ちは……
ないんだ……)
「……そうですか」
志穂は小さく微笑んだ。
泣かないように必死で。
「じゃあ……行ってきますね。
少しだけ……」
悠真は言いたくて、でも言えない。
喉が震えている。
昨夜は叫べたのに。
今日は声にならない。
その違いが、
ふたりの距離をさらに遠ざけていった。