『愛してるの一言がほしくて ―幼なじみ新婚はすれ違いだらけ―』
第40章「悠真、初めて“本気で怒る”」
夜風が揺れる。
街灯の白い光の下——
志穂の手首を掴んだ男は、
悠真の視線を受けても微動だにしなかった。
新堂晶司。
真理の元婚約者。
そして今、
志穂に“興味”を持っている男。
「……ご主人でしたか」
晶司は無表情のまま、
志穂の手を離す。
「心配なさらず。
ただ……興味があって、お声を掛けしただけです」
「興味……?」
悠真の声は低く、
浅く震えていた。
(……興味で、
志穂に触れた……?)
喉の奥で、
何かが切れそうになる。
「そうです。
……優しそうな人だ。
壊れやすい。
だから……目が離せなくなる」
晶司の言葉は淡々としているのに、
ひとつひとつが志穂の心を刺していた。
(やめて……)
(そんなふうに言わないで……)
志穂は震える手で胸を押さえた。
その瞬間。
悠真が晶司の前へ一歩、歩み出た。
動きは静かだった。
しかし、空気が一気に変わる。
冷たく重く、鋭くなる。
「……志穂を“壊れやすい”と言ったな」
晶司は薄く笑う。
「事実ですよ。
あなたにはわからないでしょうけど……
とても繊細で——」
「黙れ。」
その声は、
刃のように鋭かった。
志穂は思わず息を呑む。
(……悠真くん……?)
悠真は晶司の目の前まで歩き、
至近距離で見下ろした。
目の奥で、
燃えるような怒りが揺れている。
「志穂に……軽々しく触れたこと。
許せると思うな」
「私は強く掴んだつもりは——」
「触れた時点でアウトだ。」
晶司の言葉を叩き切るような声音。
声は低く、静かで、
怒鳴り声ではないのに背筋が凍る。
「志穂に“興味”があると言ったな」
「ええ。
あなたには理解しがたいでしょうが——」
「理解する気もない。」
悠真の視線は一切揺れなかった。
「志穂は、
お前が勝手に興味を持っていい女じゃない。」
「……」
「志穂は、
“俺の妻” だ。」
志穂の胸が、
ぎゅっと締めつけられた。
(……悠真くん……)
「それは承知しています。
しかし——あなた方のご結婚が
“まだ浅いものであること”も聞いていますよ」
言葉は穏やか。
だが残酷。
「だったら、
私が興味を持つ余地もある」
「余地なんか……ない。」
悠真の声が落ちるたび、
空気が震える。
「志穂は、
誰にも渡さない。」
その一言に、
志穂は涙が溢れそうになった。
(……そんなふうに……
言ってくれるなんて……)
***
晶司は首を傾げ、
無表情のまま志穂を見た。
「……志穂さん。
あなたは、自分の意思で動けていますか?」
志穂の肩が強く震えた。
(なに……?
どういう意味……?)
「あなたが“本当に求めるもの”を
ご主人は与えてくれていますか?」
確信を突く言葉。
志穂は目を逸らし、
胸に手を当てる。
(やめて……
そんなこと……言わないで……)
「志穂を試すな。」
悠真が一歩、晶司の前へ踏み出す。
街灯の下、
影が交差する。
「お前に……
志穂の気持ちを揺さぶる資格はない。」
「そうでしょうか?」
晶司は無表情のまま続けた。
「真理さんは、
“自分の心が揺れる相手ではなかった”。
だから離れた。」
「…………」
「でも志穂さんは違う。
あなたとは違う形で……
“感情が動く女性”だ。」
志穂の胸がズキッと痛んだ。
(どうしてそんな言い方を……)
「だから興味があるんです。」
無機質な声が響く。
「真理さんではなく、
あなたに。」
志穂の呼吸が止まる。
「……あなたなら、
救いたくなる。」
(いやだ……
そんなふうに……)
その瞬間。
悠真が晶司の胸ぐらを掴んだ。
激しい動きではない。
静かで、ゆっくり。
だが確実に怒りが滲んだ手。
「……冗談でも言うな。」
低い声。
空気ごと震えるような声音。
「志穂を……
お前に“救わせる”と思うか。」
晶司が言葉を失う。
(……悠真くん……)
「志穂を守るのは、俺だ。」
志穂の心が、大きく震えた。
「……永遠に。
他の誰でもない。
俺が。」
その言葉は熱く、
街灯の光より眩しかった。
晶司は胸ぐらを掴まれたまま、
初めて表情を揺らした。
「……あなたの覚悟、
拝見しました。」
「二度と……志穂に触れるな。」
「……了解しました。
しかし——
興味が消えるとは限りませんが」
その一言を残し、
晶司は静かに夜の道へ歩き去った。
影が、
街灯の外へ消えていく。
残されたのは
志穂と悠真の二人。
志穂は震える声で呼ぶ。
「……ゆ、悠真くん……」
振り返った悠真の目には、
まだ怒りと……ほんの少しの恐怖が残っていた。
「……大丈夫か」
「うん……でも……
怖かった……」
志穂の手が震える。
その手を、悠真は優しく包んだ。
「……もう大丈夫だ。
俺がいる。」
夜風が吹き、
街灯が淡く揺れていた。
志穂の胸に、
初めて“守られている”という安心が落ちてくる。
街灯の白い光の下——
志穂の手首を掴んだ男は、
悠真の視線を受けても微動だにしなかった。
新堂晶司。
真理の元婚約者。
そして今、
志穂に“興味”を持っている男。
「……ご主人でしたか」
晶司は無表情のまま、
志穂の手を離す。
「心配なさらず。
ただ……興味があって、お声を掛けしただけです」
「興味……?」
悠真の声は低く、
浅く震えていた。
(……興味で、
志穂に触れた……?)
喉の奥で、
何かが切れそうになる。
「そうです。
……優しそうな人だ。
壊れやすい。
だから……目が離せなくなる」
晶司の言葉は淡々としているのに、
ひとつひとつが志穂の心を刺していた。
(やめて……)
(そんなふうに言わないで……)
志穂は震える手で胸を押さえた。
その瞬間。
悠真が晶司の前へ一歩、歩み出た。
動きは静かだった。
しかし、空気が一気に変わる。
冷たく重く、鋭くなる。
「……志穂を“壊れやすい”と言ったな」
晶司は薄く笑う。
「事実ですよ。
あなたにはわからないでしょうけど……
とても繊細で——」
「黙れ。」
その声は、
刃のように鋭かった。
志穂は思わず息を呑む。
(……悠真くん……?)
悠真は晶司の目の前まで歩き、
至近距離で見下ろした。
目の奥で、
燃えるような怒りが揺れている。
「志穂に……軽々しく触れたこと。
許せると思うな」
「私は強く掴んだつもりは——」
「触れた時点でアウトだ。」
晶司の言葉を叩き切るような声音。
声は低く、静かで、
怒鳴り声ではないのに背筋が凍る。
「志穂に“興味”があると言ったな」
「ええ。
あなたには理解しがたいでしょうが——」
「理解する気もない。」
悠真の視線は一切揺れなかった。
「志穂は、
お前が勝手に興味を持っていい女じゃない。」
「……」
「志穂は、
“俺の妻” だ。」
志穂の胸が、
ぎゅっと締めつけられた。
(……悠真くん……)
「それは承知しています。
しかし——あなた方のご結婚が
“まだ浅いものであること”も聞いていますよ」
言葉は穏やか。
だが残酷。
「だったら、
私が興味を持つ余地もある」
「余地なんか……ない。」
悠真の声が落ちるたび、
空気が震える。
「志穂は、
誰にも渡さない。」
その一言に、
志穂は涙が溢れそうになった。
(……そんなふうに……
言ってくれるなんて……)
***
晶司は首を傾げ、
無表情のまま志穂を見た。
「……志穂さん。
あなたは、自分の意思で動けていますか?」
志穂の肩が強く震えた。
(なに……?
どういう意味……?)
「あなたが“本当に求めるもの”を
ご主人は与えてくれていますか?」
確信を突く言葉。
志穂は目を逸らし、
胸に手を当てる。
(やめて……
そんなこと……言わないで……)
「志穂を試すな。」
悠真が一歩、晶司の前へ踏み出す。
街灯の下、
影が交差する。
「お前に……
志穂の気持ちを揺さぶる資格はない。」
「そうでしょうか?」
晶司は無表情のまま続けた。
「真理さんは、
“自分の心が揺れる相手ではなかった”。
だから離れた。」
「…………」
「でも志穂さんは違う。
あなたとは違う形で……
“感情が動く女性”だ。」
志穂の胸がズキッと痛んだ。
(どうしてそんな言い方を……)
「だから興味があるんです。」
無機質な声が響く。
「真理さんではなく、
あなたに。」
志穂の呼吸が止まる。
「……あなたなら、
救いたくなる。」
(いやだ……
そんなふうに……)
その瞬間。
悠真が晶司の胸ぐらを掴んだ。
激しい動きではない。
静かで、ゆっくり。
だが確実に怒りが滲んだ手。
「……冗談でも言うな。」
低い声。
空気ごと震えるような声音。
「志穂を……
お前に“救わせる”と思うか。」
晶司が言葉を失う。
(……悠真くん……)
「志穂を守るのは、俺だ。」
志穂の心が、大きく震えた。
「……永遠に。
他の誰でもない。
俺が。」
その言葉は熱く、
街灯の光より眩しかった。
晶司は胸ぐらを掴まれたまま、
初めて表情を揺らした。
「……あなたの覚悟、
拝見しました。」
「二度と……志穂に触れるな。」
「……了解しました。
しかし——
興味が消えるとは限りませんが」
その一言を残し、
晶司は静かに夜の道へ歩き去った。
影が、
街灯の外へ消えていく。
残されたのは
志穂と悠真の二人。
志穂は震える声で呼ぶ。
「……ゆ、悠真くん……」
振り返った悠真の目には、
まだ怒りと……ほんの少しの恐怖が残っていた。
「……大丈夫か」
「うん……でも……
怖かった……」
志穂の手が震える。
その手を、悠真は優しく包んだ。
「……もう大丈夫だ。
俺がいる。」
夜風が吹き、
街灯が淡く揺れていた。
志穂の胸に、
初めて“守られている”という安心が落ちてくる。