『愛してるの一言がほしくて ―幼なじみ新婚はすれ違いだらけ―』
第48章「車内での真相(志穂、涙の告白)」
ドアが閉まり、
車内に静かな空気が満ちる。
外の喧騒がゆっくり遠ざかり、
エアコンの優しい風だけが頬を撫でた。
(……狭い……
こんなに近かったっけ……)
志穂は自分の膝の上で手を握る。
対して、悠真は
隣で静かに息を整えていた。
その横顔は、
いつもより少し険しい。
怒っているわけではない。
ただ、何かを“決めている”顔。
(……怖い……
でも……安心する……)
相反する気持ちが胸でぶつかる。
先に悠真が口を開いた。
「……志穂」
「っ……はい……?」
「今日、おまえ……
どこか痛むような顔してた」
「……」
「朝も。
出社してからも。
廊下で誰かと話してる時も」
(……見てた……?)
「俺、心配で……
仕事が手につかなかった」
志穂の胸がきゅっと熱を帯びる。
(どうしよう……
そんなふうに言われたら……
もう……泣いてしまう……)
「……なにがあった?」
その低い声に誘われるように、
心の堰がゆっくり崩れはじめた。
「なにも……
ない……よ……」
「志穂」
名前を呼ばれただけで涙腺が震える。
「俺を信用しろとは言わない。
でも……
“ひとりで抱え込むな”とは言う」
「……」
「言ってくれ。
……頼む」
その“頼む”が、
志穂の胸に真っ直ぐ入り込んだ。
(ずるいよ……
そんな言い方……)
志穂は唇を強く噛む。
「……っ……」
「志穂?」
肩が震え出すのを、
もう止められなかった。
「こ、怖かったの……」
小さな声だったが、
確かに届いた。
「昨日……
マンションの前で……」
言いかけると、
悠真が顔をしかめる。
「昨日の……男だな」
「……うん……」
「何をされた?」
「何も……されてない……
けど……」
涙がこぼれた。
「……すごく近くて……
名前呼ばれて……
声が……怖くて……」
「……っ」
悠真の体がわずかに強張る。
「逃げようとしたら……
腕、掴まれて……
離してくれなくて……」
嗚咽が混じる。
「誰にも……
助けてって言えなくて……
でも……あなたが来てくれて……」
こぼれ落ちる涙。
震える指。
「本当に……怖かった……」
とうとう志穂は、
手で顔を覆ってしまった。
しばらく、
車内は涙の音だけが支配した。
悠真はすぐには触れない。
泣き止ませようともしない。
ただ、隣で
苦しそうに息を押し殺していた。
(……気づけなかった……
もっと早く守れたのに……)
その後悔が
彼の胸の奥に重く沈む。
そして——
「志穂」
ゆっくりと、
手が伸びてきた。
髪を、そっと撫でる。
優しく指が絡まる。
「……よく言った」
「あ……」
「怖かったのに……
ちゃんと話してくれた」
その声は、
志穂の涙を溶かしてしまいそうなほど優しい。
「ありがとう。
本当に……ありがとう」
「っ……悠真……くん……」
「もう……ひとりで泣くな」
その瞬間、
志穂の涙が再びあふれた。
「だから言っただろ。
おまえが震えるのは……
俺は二度と見たくない」
近づく声。
息が触れる距離。
「守る。
……もう、絶対に」
涙の中で、
志穂の胸が静かに震えた。
(言わない……
“愛してる”とは言わない。
でも……)
(こんなふうに言われたら……
もう……十分すぎるよ……)
車内に静かな空気が満ちる。
外の喧騒がゆっくり遠ざかり、
エアコンの優しい風だけが頬を撫でた。
(……狭い……
こんなに近かったっけ……)
志穂は自分の膝の上で手を握る。
対して、悠真は
隣で静かに息を整えていた。
その横顔は、
いつもより少し険しい。
怒っているわけではない。
ただ、何かを“決めている”顔。
(……怖い……
でも……安心する……)
相反する気持ちが胸でぶつかる。
先に悠真が口を開いた。
「……志穂」
「っ……はい……?」
「今日、おまえ……
どこか痛むような顔してた」
「……」
「朝も。
出社してからも。
廊下で誰かと話してる時も」
(……見てた……?)
「俺、心配で……
仕事が手につかなかった」
志穂の胸がきゅっと熱を帯びる。
(どうしよう……
そんなふうに言われたら……
もう……泣いてしまう……)
「……なにがあった?」
その低い声に誘われるように、
心の堰がゆっくり崩れはじめた。
「なにも……
ない……よ……」
「志穂」
名前を呼ばれただけで涙腺が震える。
「俺を信用しろとは言わない。
でも……
“ひとりで抱え込むな”とは言う」
「……」
「言ってくれ。
……頼む」
その“頼む”が、
志穂の胸に真っ直ぐ入り込んだ。
(ずるいよ……
そんな言い方……)
志穂は唇を強く噛む。
「……っ……」
「志穂?」
肩が震え出すのを、
もう止められなかった。
「こ、怖かったの……」
小さな声だったが、
確かに届いた。
「昨日……
マンションの前で……」
言いかけると、
悠真が顔をしかめる。
「昨日の……男だな」
「……うん……」
「何をされた?」
「何も……されてない……
けど……」
涙がこぼれた。
「……すごく近くて……
名前呼ばれて……
声が……怖くて……」
「……っ」
悠真の体がわずかに強張る。
「逃げようとしたら……
腕、掴まれて……
離してくれなくて……」
嗚咽が混じる。
「誰にも……
助けてって言えなくて……
でも……あなたが来てくれて……」
こぼれ落ちる涙。
震える指。
「本当に……怖かった……」
とうとう志穂は、
手で顔を覆ってしまった。
しばらく、
車内は涙の音だけが支配した。
悠真はすぐには触れない。
泣き止ませようともしない。
ただ、隣で
苦しそうに息を押し殺していた。
(……気づけなかった……
もっと早く守れたのに……)
その後悔が
彼の胸の奥に重く沈む。
そして——
「志穂」
ゆっくりと、
手が伸びてきた。
髪を、そっと撫でる。
優しく指が絡まる。
「……よく言った」
「あ……」
「怖かったのに……
ちゃんと話してくれた」
その声は、
志穂の涙を溶かしてしまいそうなほど優しい。
「ありがとう。
本当に……ありがとう」
「っ……悠真……くん……」
「もう……ひとりで泣くな」
その瞬間、
志穂の涙が再びあふれた。
「だから言っただろ。
おまえが震えるのは……
俺は二度と見たくない」
近づく声。
息が触れる距離。
「守る。
……もう、絶対に」
涙の中で、
志穂の胸が静かに震えた。
(言わない……
“愛してる”とは言わない。
でも……)
(こんなふうに言われたら……
もう……十分すぎるよ……)