『愛してるの一言がほしくて ―幼なじみ新婚はすれ違いだらけ―』
第55章「愛してるの回収/エピローグ」
帰りの車の中は、
驚くほど静かだった。
外の街灯が流れていくたびに、
志穂の横顔が
淡い光に照らされては消えていく。
(……終わったんだ……
本当に……終わったんだ)
そう思うのに、
胸はまだぎゅっと締め付けられたままだった。
晶司の言葉。
叔父の冷たい視線。
代わりだと言われたあの瞬間。
すべてが、まだ心に棘のように刺さっている。
(……怖かった)
涙が落ちそうになったとき。
「志穂」
悠真の声が優しく落ちてきた。
「手……貸して」
差し出された指に、
志穂は躊躇いながら触れた。
ぎゅっと握り返される。
「痛かった?」
「……痛くはないよ……
でも……苦しかった……」
「ごめん」
即答だった。
その短い言葉に、
胸がじんわり熱くなる。
「でも……守れたよ。
やっと全部……終わった」
志穂は小さく頷いた。
でも。
「……悠真くん。
ひとつ、聞いていい?」
声が震えた。
「どうして今日……
あんなふうに……怒ってくれたの?」
悠真はハンドルから手を放し、
彼女に体を向けた。
街灯の光が、
彼の横顔を静かに縁取る。
「志穂」
ゆっくり、
彼女の髪に指を通した。
(……ドキッ……)
「今日、おまえが震えてたの……
忘れられなかった」
志穂の胸が熱くなる。
「守れなかったこと……
二度と……したくなかった」
「悠真くん……」
「だから、言わないと。
これを言わなきゃ……
俺は一生、おまえを守れない気がした」
心臓の音が
車内に響く気がした。
(……言う……?
ほんとに……?)
息を飲む志穂の前で、
悠真はゆっくり、
彼女の頬に触れた。
「志穂」
名前を呼ぶ声が、
いつもより柔らかくて、少し熱い。
「愛してる」
涙が、
勝手にあふれた。
溢れて、溢れて、
止められなかった。
「……やっと……言ってくれた……」
「うん」
「ずっと……言ってほしかったのに……
怖くて聞けなくて……
でも……本当は……ずっと……」
「知ってたよ」
優しく抱き寄せられて、
志穂の体が震えた。
「おまえの欲しい言葉を言えない俺が……
一番弱かった」
「弱くなんて……ないよ」
「ある。
でももう言える。
何度でも言う」
額がそっと触れ合う。
「志穂。
愛してるよ。
一生……おまえだけ」
その言葉が、
胸の奥深くに吸い込まれていく。
ゆっくり、
ゆっくりと、
長く続く抱擁。
恐怖も、悲しみも、震えも、
その腕の中で、全部ほどけていった。
翌朝。
志穂は久しぶりに
ぐっすり眠れた顔で目を覚ました。
キッチンから、
コーヒーの香りが漂ってくる。
「……おはよう」
声のする方へ向かうと、
エプロン姿の悠真が、
窓からの光の中で微笑んだ。
「おはよう、志穂」
テーブルには
焼き立てのパンとスクランブルエッグ。
そして——
光を浴びた二人の指輪が
きらりと輝いていた。
(……幸せ、ってこういう朝なんだ……)
「志穂」
「なに?」
「今日も言うよ」
優しく笑いながら、
彼は手を差し出した。
「愛してる」
志穂は泣き笑いになりながら、
その手を握り返した。
「わたしも……
愛してるよ、悠真くん」
穏やかな朝日が差し込み、
二人の影をひとつに重ねていく。
すれ違いも、誤解も、涙も、
すべてはこの日のためにあった。
——やっと本当の夫婦になれた。
そう思いながら、
二人は静かな朝食を始めた。
温かな未来の予感に包まれながら。
驚くほど静かだった。
外の街灯が流れていくたびに、
志穂の横顔が
淡い光に照らされては消えていく。
(……終わったんだ……
本当に……終わったんだ)
そう思うのに、
胸はまだぎゅっと締め付けられたままだった。
晶司の言葉。
叔父の冷たい視線。
代わりだと言われたあの瞬間。
すべてが、まだ心に棘のように刺さっている。
(……怖かった)
涙が落ちそうになったとき。
「志穂」
悠真の声が優しく落ちてきた。
「手……貸して」
差し出された指に、
志穂は躊躇いながら触れた。
ぎゅっと握り返される。
「痛かった?」
「……痛くはないよ……
でも……苦しかった……」
「ごめん」
即答だった。
その短い言葉に、
胸がじんわり熱くなる。
「でも……守れたよ。
やっと全部……終わった」
志穂は小さく頷いた。
でも。
「……悠真くん。
ひとつ、聞いていい?」
声が震えた。
「どうして今日……
あんなふうに……怒ってくれたの?」
悠真はハンドルから手を放し、
彼女に体を向けた。
街灯の光が、
彼の横顔を静かに縁取る。
「志穂」
ゆっくり、
彼女の髪に指を通した。
(……ドキッ……)
「今日、おまえが震えてたの……
忘れられなかった」
志穂の胸が熱くなる。
「守れなかったこと……
二度と……したくなかった」
「悠真くん……」
「だから、言わないと。
これを言わなきゃ……
俺は一生、おまえを守れない気がした」
心臓の音が
車内に響く気がした。
(……言う……?
ほんとに……?)
息を飲む志穂の前で、
悠真はゆっくり、
彼女の頬に触れた。
「志穂」
名前を呼ぶ声が、
いつもより柔らかくて、少し熱い。
「愛してる」
涙が、
勝手にあふれた。
溢れて、溢れて、
止められなかった。
「……やっと……言ってくれた……」
「うん」
「ずっと……言ってほしかったのに……
怖くて聞けなくて……
でも……本当は……ずっと……」
「知ってたよ」
優しく抱き寄せられて、
志穂の体が震えた。
「おまえの欲しい言葉を言えない俺が……
一番弱かった」
「弱くなんて……ないよ」
「ある。
でももう言える。
何度でも言う」
額がそっと触れ合う。
「志穂。
愛してるよ。
一生……おまえだけ」
その言葉が、
胸の奥深くに吸い込まれていく。
ゆっくり、
ゆっくりと、
長く続く抱擁。
恐怖も、悲しみも、震えも、
その腕の中で、全部ほどけていった。
翌朝。
志穂は久しぶりに
ぐっすり眠れた顔で目を覚ました。
キッチンから、
コーヒーの香りが漂ってくる。
「……おはよう」
声のする方へ向かうと、
エプロン姿の悠真が、
窓からの光の中で微笑んだ。
「おはよう、志穂」
テーブルには
焼き立てのパンとスクランブルエッグ。
そして——
光を浴びた二人の指輪が
きらりと輝いていた。
(……幸せ、ってこういう朝なんだ……)
「志穂」
「なに?」
「今日も言うよ」
優しく笑いながら、
彼は手を差し出した。
「愛してる」
志穂は泣き笑いになりながら、
その手を握り返した。
「わたしも……
愛してるよ、悠真くん」
穏やかな朝日が差し込み、
二人の影をひとつに重ねていく。
すれ違いも、誤解も、涙も、
すべてはこの日のためにあった。
——やっと本当の夫婦になれた。
そう思いながら、
二人は静かな朝食を始めた。
温かな未来の予感に包まれながら。
