白桜国夜話 死を願う龍帝は運命の乙女に出会う
◆第二章
青い空からは真夏の強い日差しが容赦なく降り注ぎ、辺りのものを色鮮やかに浮かび上がらせている。
踵を返し、皇極殿の方向へ歩き始めた高天帝の後ろから、剣獅の烈真が注進してきた。
「先ほどのような発言は、どうかお慎みください。人の口には戸が立てられぬもの、回り回って閣僚たちの耳に入れば、付け入る隙を与えかねません」
「耳に入ったとしても、一向に構わない。あの者たちが私に直接『退位せよ』と進言する勇気があるなら、言ってみればいいのだ」
建国以来、龍帝の地位は終身制で、臣下に罷免する権利はない。
つまり死ぬまで帝位に在り続けるということだが、薨去する際には後継となる皇太子がいるのが絶対条件だ。
だが高天帝には現在妃も御子もおらず、閣僚たちからの圧は強まるばかりだった。身の周りの世話をする華綾の采女の数は増える一方で、彼女たちを送り込んだ者たちはいずれ帝位を継ぐ御子の外戚となる機会を虎視眈々と狙っている。
先ほど会った新顔の采女も、そうだ。先月入ったばかりの彼女は名を朱華といい、内蔵頭である風峯の娘だという。
顔立ちは父親に似ておらず、艶やかな黒髪と可憐な美貌が印象的で、こちらの発言にひどく戸惑っていた。
(先ほど口にしたのは紛うことなき本心だが、あの娘を驚かせてしまったかもしれない。まさかこの国の為政者が死にたがっているとは思わないだろうからな)
朱華に告げたとおり、高天帝は生きることに飽いている。
できるなら早くこの人の器を脱ぎ捨て、天に帰りたい。だがそうなればこの白桜国は荒廃するのが予想され、胸が苦しくなった。
(なまじ私に初代の記憶があるから、こんなふうに悩みが深いのかもしれない。かつてはこの国の民が安らかに暮らせるように祈っていたはずなのに、虚しさを感じるだなんて)
踵を返し、皇極殿の方向へ歩き始めた高天帝の後ろから、剣獅の烈真が注進してきた。
「先ほどのような発言は、どうかお慎みください。人の口には戸が立てられぬもの、回り回って閣僚たちの耳に入れば、付け入る隙を与えかねません」
「耳に入ったとしても、一向に構わない。あの者たちが私に直接『退位せよ』と進言する勇気があるなら、言ってみればいいのだ」
建国以来、龍帝の地位は終身制で、臣下に罷免する権利はない。
つまり死ぬまで帝位に在り続けるということだが、薨去する際には後継となる皇太子がいるのが絶対条件だ。
だが高天帝には現在妃も御子もおらず、閣僚たちからの圧は強まるばかりだった。身の周りの世話をする華綾の采女の数は増える一方で、彼女たちを送り込んだ者たちはいずれ帝位を継ぐ御子の外戚となる機会を虎視眈々と狙っている。
先ほど会った新顔の采女も、そうだ。先月入ったばかりの彼女は名を朱華といい、内蔵頭である風峯の娘だという。
顔立ちは父親に似ておらず、艶やかな黒髪と可憐な美貌が印象的で、こちらの発言にひどく戸惑っていた。
(先ほど口にしたのは紛うことなき本心だが、あの娘を驚かせてしまったかもしれない。まさかこの国の為政者が死にたがっているとは思わないだろうからな)
朱華に告げたとおり、高天帝は生きることに飽いている。
できるなら早くこの人の器を脱ぎ捨て、天に帰りたい。だがそうなればこの白桜国は荒廃するのが予想され、胸が苦しくなった。
(なまじ私に初代の記憶があるから、こんなふうに悩みが深いのかもしれない。かつてはこの国の民が安らかに暮らせるように祈っていたはずなのに、虚しさを感じるだなんて)