白桜国夜話 死を願う龍帝は運命の乙女に出会う
◆第五章
白桜国の民にとって龍帝は雲の上の存在で、彼の意向は最優先するべきものであり、呼び出された立場で中座するのはあまりに不敬だ。
そうわかっているのに、あれ以上普通の顔で高天帝の前にいることができなかった。朱華は足早に庭園内を歩きながら、かすかに顔を歪める。
(龍帝陛下に、忘れられない女性がいたなんて知らなかった。その方を愛するがゆえに華綾の采女たちを遠ざけていただなんて)
だが、それならば今まで妃を一人も娶らなかったことに納得がいく。
高天帝がそうした行動を取っていた理由は、てっきり体調不良が原因かと思っていた。厭世的な考えから気鬱が生じ、それが身体にも影響していると考えていたが、どうやら根本的に違っていたようだ。
思いがけない告白を受け、朱華は自分でも驚くほど動揺していた。その前にわざわざ散歩に誘われたこと、「逃げ隠れする必要はないのだから、堂々としていればいい」「私はそなたを特別に思っている」という発言に驚き、彼が自分をどう思っているのか気になっていた朱華は、庭園で摘んだ玉簾の花を髪に飾られて胸がいっぱいになった。
高天帝の行動はまるでいとしい相手にするもののようで、これまで何度も顔を合わせて話をするうちに少しずつこみ上げてきた気持ちに明確な名前がついたのを感じた。
(わたしは……この方に強く心惹かれている。この国でもっとも尊い位にある、龍帝陛下なのに)
朱華の目から見た彼は、銀色の髪と赤い瞳という人ならざる容貌を持つ、怖いくらいに美しい男性だ。
その姿は畏怖と同時に恍惚に似た思いを抱かせるもので、立ち居振る舞いや話し方に侵しがたい威厳を感じる。
一方で高天帝には過剰に威圧的なところがなく、人柄は穏やかで言動に気遣いがあった。それだけにいつも気だるげで生きることに飽いている様子なのが痛々しく、朱華は本来の自分の目的を忘れて彼の話し相手となった。
(役職付きの采女たちが拒まれているのだから、わたしが相手にされるわけがないのはわかっていた。でも、だったらどうしてあんな思わせぶりな発言をするの? わたしの反応を見て楽しんでいるだけ……?)
そうわかっているのに、あれ以上普通の顔で高天帝の前にいることができなかった。朱華は足早に庭園内を歩きながら、かすかに顔を歪める。
(龍帝陛下に、忘れられない女性がいたなんて知らなかった。その方を愛するがゆえに華綾の采女たちを遠ざけていただなんて)
だが、それならば今まで妃を一人も娶らなかったことに納得がいく。
高天帝がそうした行動を取っていた理由は、てっきり体調不良が原因かと思っていた。厭世的な考えから気鬱が生じ、それが身体にも影響していると考えていたが、どうやら根本的に違っていたようだ。
思いがけない告白を受け、朱華は自分でも驚くほど動揺していた。その前にわざわざ散歩に誘われたこと、「逃げ隠れする必要はないのだから、堂々としていればいい」「私はそなたを特別に思っている」という発言に驚き、彼が自分をどう思っているのか気になっていた朱華は、庭園で摘んだ玉簾の花を髪に飾られて胸がいっぱいになった。
高天帝の行動はまるでいとしい相手にするもののようで、これまで何度も顔を合わせて話をするうちに少しずつこみ上げてきた気持ちに明確な名前がついたのを感じた。
(わたしは……この方に強く心惹かれている。この国でもっとも尊い位にある、龍帝陛下なのに)
朱華の目から見た彼は、銀色の髪と赤い瞳という人ならざる容貌を持つ、怖いくらいに美しい男性だ。
その姿は畏怖と同時に恍惚に似た思いを抱かせるもので、立ち居振る舞いや話し方に侵しがたい威厳を感じる。
一方で高天帝には過剰に威圧的なところがなく、人柄は穏やかで言動に気遣いがあった。それだけにいつも気だるげで生きることに飽いている様子なのが痛々しく、朱華は本来の自分の目的を忘れて彼の話し相手となった。
(役職付きの采女たちが拒まれているのだから、わたしが相手にされるわけがないのはわかっていた。でも、だったらどうしてあんな思わせぶりな発言をするの? わたしの反応を見て楽しんでいるだけ……?)