実は、愛されまくりの妻でした。
ただ、好きになってほしいだけ
 残暑が厳しい九月が過ぎ、いよいよ秋本番となってきた十月初旬。週明けの月曜日ということもあって、三浦総合病院には多くの患者が来院していた。

 ここは病床数五〇〇以上の地域医療支援病院として、紹介患者に対する医療提供、医療機器の共同利用等を行い、かかりつけ医等への支援を通じて地域医療の確保を図っている。

 緩んでしまった肩より少し下まである髪を、後ろでひとつに結び直して廊下に出る。糖尿病患者への栄養指導を終えて、白衣の襟を正しながら一階の受付ロビー前を進んでいく。

 私、三浦(みうら)繭子(まゆこ)が大学を卒業後、管理栄養士として働き始めてそろそろ四年が経とうとしている。

 病院内での管理栄養士としての仕事は大きく分けてふたつある。ひとつは給食業務で、食堂や患者様へ提供する食事の献立作成や調理をおこなう。

 そしてもうひとつは臨床業務。NST(栄養サポートチーム)という様々な医療従事者と連携しておこなうチーム医療の一員として患者様のケアに当たる業務だ。

 ほかにも栄養指導したりカンファレンスにも参加したりする。

 二年目までは給食業務に就いており、栄養バランスを考えながら献立を作成し、調理もしていた。

 そして三年目からは臨床業務へ移動となり、内科と産婦人科を受け持ち、日々それぞれ病状や栄養状態が違う患者様に、食事の面でケアに当たっている。

三浦総合病院は六階建てで、一階と二階は主に各科の外来患者を受け入れる診察室がある。ほかに透析室やリハビリ室、検査室。食堂や売店と様々。

 三階より六階までが入院患者が過ごす病棟があり、手術室もある。

 私が担当する内科と産婦人科の病棟がある五階までエレベーターで上がり、ナースステーションへと向かう。

 そこで今から看護師と気になる入院患者の業務報告をおこなう。

「五〇二号室の安藤さん、最近むせることが少なくなってきて、ご本人様から固形の物が食べたいという訴えが多く聞かれるようになってきました」

「そうなんですね」

 看護師からの報告を受け、考え込む。

「それでは今度、評価をおこなってみましょうか」

「はい、そのほうがいいと思います」

 評価とは嚥下障害のある患者様がどのくらいの食事を摂取できるかを、医師や看護師、言語聴覚士とともに嚥下機能評価をおこなうことをいう。
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