Love in Crisis

◆第6話 「残響する危険と、ふたりの決意」

赤いランプが消え、奏叶の首の痛みが消えた瞬間。
床に座り込む二人は、互いの存在をぎゅっと確かめるように抱き合った。

「……莉子」
「奏叶……本当によかった……」

涙が頬を伝い、胸の奥が熱くなる。
二人の間に、言葉はいらなかった。

だが、安心できるのは一瞬だった。
薄暗い空間に、まだ警告音の残響のような緊張が漂う。
あの獣医と佳奈の存在が、遠くに消えたわけではない。

「……まだ、油断できないな」
奏叶の声は低く、けれど確かに落ち着きを取り戻していた。
莉子も深く頷く。

「うん……でも、奏叶が無事なら私……どんなことでも……」
胸に込み上げる想いを、莉子は言葉に乗せる。

二人は手を握り合い、ゆっくりと立ち上がる。
体の震えが完全には収まらないけれど、それでも前に進まなければならない。

周囲を見回す。
壁には、逃げるための仕掛けや罠の残影が見える。
地面にはまだ小さなセンサーやコードが張り巡らされているようだった。

「……慎重に、だな」
奏叶が低く言う。
莉子は息を整え、うなずいた。

「一歩一歩……気を抜かずに」

二人の視線は固く交わる。
今まで感じたことのない緊張感と、互いへの信頼が入り混じった感覚。
それが、彼らを前に進ませる力になっていた。

ふと、奏叶は莉子の手を握り締める。
「莉子……今度は、絶対に離れない」

その言葉に、莉子の胸が一瞬で熱くなる。
——守られている、そして自分も守りたい。

赤い警告ランプはもうないが、二人の心にはまだ、危険の影がちらつく。
それでも、二人は互いの体温と鼓動を確かめながら、静かに前進を始めた。

廊下の先には、薄暗い階段が続く。
その先に何が待つかはわからない。
けれど、二人はもう怖くなかった。
どんな罠があろうと、どんな敵が現れようと——

二人なら、きっと乗り越えられる。

莉子は息を整え、決意を胸に奏叶に囁く。
「奏叶……行こう。二人で」

奏叶は小さく微笑み、莉子の手を強く握り返す。
「ああ……一緒にな」

そして、二人は揃って階段を上り、次の試練へと足を踏み出した。

——まだ脱出は終わらない。
だが、命を賭けた絆は、確かに二人を強くしていた。


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