Love in Crisis

◆第7話 「迫り来る影と、逃げるふたり」

階段を上った先は、薄暗く狭い通路だった。
足音一つでも、心臓がドキリと跳ねる。

「……誰かいる」
莉子が小さく息を漏らす。
奏叶は片手で彼女を守るように掴み、周囲を警戒する。

通路の奥から、かすかな光が揺れる。
影のように動くもの——
獣医と佳奈の姿だった。

「見つけた……!」
佳奈の声が反響する。
莉子は震えたが、奏叶の手を握り返す。

「……大丈夫、莉子。俺がいる」
その言葉に、胸がぎゅっと熱くなる。
二人の間には、言葉以上の信頼があった。

獣医が何かを手に持ち、通路を塞ぐように立つ。
「ここまでか……」
冷たい声が響く。

だが、奏叶は恐れず一歩前に出る。
「俺たちは通る。莉子を傷つけるな」

佳奈が前に立ちはだかり、スマホの画面をちらつかせる。
「逃げられると思う? さっきのようにはいかないよ」

莉子は深呼吸し、奏叶に身を寄せる。
「奏叶……私、怖いけど……あなたと一緒なら」
「俺もだ、莉子」

二人の間に、覚悟と決意が満ちる。

奏叶は小さなカッターナイフを握り、軽く構える。
「俺の指示に従って動け」

莉子は頷き、心臓が激しく跳ねるのを感じながら彼に従う。

通路の端を駆け抜ける瞬間、佳奈が腕を伸ばして捕まえようとする。
だが奏叶が瞬間的に体を投げ出し、莉子を庇う。

「奏叶!!」
「離れろ、莉子!」

二人は肩を寄せ合いながら狭い通路を走る。
背後で警告音が鳴り響き、獣医の冷たい声が反響する。

「逃がさない……絶対に!」

莉子は必死で息を整えながらも、奏叶の手を握り返す。
「奏叶……負けないで……!」

奏叶も頷き、莉子を背に守るように走る。
二人の距離が近いほど、心臓の鼓動が互いに伝わる。
恐怖と愛情が入り混じり、二人の呼吸はひとつになった。

通路の先に、小さな扉が見える。
あれが出口か——
莉子は力を振り絞り、奏叶に囁く。

「ここ……行こう」

奏叶は頷き、二人で扉に向かって駆け出す。
その瞬間、佳奈がスマホを操作し、天井のセンサーが光を放つ——

「ここまでか……!」

だが、奏叶はためらわず、莉子を抱えて扉を押し開ける。
二人は光の中へ飛び出し、外の空気が二人を包む。

「……外だ……!」
莉子は大きく息を吸い込み、涙が自然と溢れる。

奏叶も肩で息をしながら、莉子を抱きしめる。
「莉子……生きててくれてよかった」
「奏叶……私も……絶対に離さない」

二人は強く抱き合い、外の風に心を預ける。
背後で佳奈の叫び声が遠ざかっていく。
まだ完全には安全ではない。
だが、二人の絆と勇気が、確かに未来への道を開いた——


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